死と暴力と日本愛に溢れた『ブレット・トレイン』 新幹線に乗り込んだようなドライブ感

 また、オールスターキャストによる個性豊かなキャラクターも本作の魅力のひとつ。ブラッド・ピットが演じるのは世界一不運な殺し屋レディバグ。代表作『ファイト・クラブ』(1999年)で人を殴るマッチョイズムのカリスマ、タイラー・ダーデンを演じて幾星霜。今回のブラッド・ピットは平和主義でセラピーに通う、市民的な殺し屋を演じている。命を狙われる度に話し合いを持ちかけるものの大半の殺し屋にウザがられ、自分の不運を嘆きながら度々「この列車から降りられたら寺とか行って、禅をするんだ」とぼやくその姿は、今までにない哀愁とおかしみを誘う。また、ブライアン・タイリー・ヘンリー演じる殺し屋“レモン”は『きかんしゃトーマス』で人生観を学んだ殺し屋であり、隙あらば『きかんしゃトーマス』の話をする。そんな彼とバディを組む殺し屋“タンジェリン(みかん)”(アーロン・テイラー=ジョンソン)は、とあるシーンで知能指数五歳児レベルのマッスルさをたった一人で担っている。ちなみにこの二人の会話劇は本作でも屈指の見所である。注目の日系スター、アンドリュー・小路はずっと不憫で最高だし、ジョーイ・キング演じる“プリンス”はキュートで悪魔的だ。そんな彼ら彼女らの会話劇と殺し合いは、ずっと見ていたくなるほど楽しい。

 人は死にまくるが、列車は停まらない。そのため最終的に『コマンドー』(1985年)の名シーン「連れを起こさないでくれ、死ぬほど疲れてる」が同時多発する本作は、大変愉快なアクションエンターテインメントである。もちろん、スクリーンに映る日本の景色はかなり様子がおかしい。路地裏の景色はネオン看板が眩しいサイバーパンクな風情だし、ブラッド・ピットは寿司でアーロン・テイラー=ジョンソンを殴ったりする。おまけに超高速列車「ゆかり号」の一車両は謎のゆるキャラ「モモもん」のコラボ車両となっており、ブラッド・ピットが「モモもん」を殴ったりする。しかし、それすらも娯楽に昇華されている。無駄話は多いがこの「楽しさ」を阻害する不純なものはなく、デヴィッド・リーチは本作を純度の高い娯楽作に仕上げている。

 本作を観賞したあと、原作の『マリアビートル』を買ったが、これが意外と原作に忠実だったことがわかり驚いている。デヴィッド・リーチはふざけ倒しているようで、かなり真摯な男なのだと思う。だからこそ“娯楽”というものの純度をここまで高めることができたのかもしれない。

■公開情報
『ブレット・トレイン』
全国公開中
出演:ブラッド・ピット、ジョーイ・キング、アーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ザジー・ビーツ、ローガン・ラーマン、マイケル・シャノン、アンドリュー・小路、ベニート・A・マルティネス・オカシオ(バッド・バニー)、福原かれん、真田広之
原作:伊坂幸太郎『マリアビートル』(角川文庫刊)
監督:デヴィッド・リーチ
脚本:ザック・オルケウィッツ
配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト:https://www.bullettrain-movie.jp
公式Twitter:https://twitter.com/BulletTrainJP
公式Instagram:https://www.instagram.com/BulletTrainJP/

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