過熱する『ちむどんどん』批判を期に考える 役柄に左右されてしまう俳優の印象について

 ドラマや映画の囲み取材に参加していると、キャストに向けた役柄に関して、お決まりの質問がある。それが「ご自身と似ていると感じる部分はありますか?」という問いかけだ。ほとんどの俳優が「そうですね……」と考え込んだり、否定的なコメントから入るのだが、そこから自身もしくはその役を客観的な目線で見始めることにより、意外と面白い発言が飛び出すことのある、決して馬鹿にはできない質問だ。

 朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)放送前に行われた黒島結菜へのインタビューでも、「暢子を演じていて、黒島さん自身と近いと思う部分はありますか?」という質問がされていた。これに黒島は「おいしいものが好きなところは一緒ですね。運動するのも一緒です。大体一緒かもしれないです(笑)。私も走るのが好きで得意だったりはするので、近いですね。性格は暢子ほど明るくはなかったりするんですけど……でも、近いところは多いかもしれないです」と答えている。(※1)最終回まで残り1カ月を切った『ちむどんどん』。猛烈な逆風が吹く今の状況において、暢子=黒島結菜というイメージが刷り込まれてしまわないか非常に危惧している。職業柄、Twitterで「#ちむどんどん」で検索する(しなけばならない)ことがあるのだが、作品へのバッシングは黒島をはじめとするキャスト陣にまで波及しているからだ。

 そもそも「ご自身と似ていると感じる部分はありますか?」という質問の裏には、少なからずその役柄と本人が似ている部分がある(だろう)という共通認識の上で成立しているのであり、例えば、賢秀を演じる竜星涼に同じ質問が今されればその取材会には笑いが起きるであろう。本人と役はあくまで別、ということは誰もが理解していても、俳優というものは一つひとつの作品で演じる人物の積み重ねによって、俳優像が形成されていくものだ。俳優業以外にも、バラエティ番組での活躍や歌手などのアーティスト活動との両立が上手くいっていればそういったイメージは固定されにくい。しかし、ほぼ俳優一本の活動であればキャスティング被りは多く発生する。

 『ちむどんどん』で和彦(宮沢氷魚)に東洋新聞からのクビを宣告する編集局長・笹森を演じる阪田マサノブは、現在放送中の『家庭教師のトラコ』(日本テレビ系)でも、『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』(テレビ東京系)でも、部下に雑務を任せたり、ほか部署への異動を言い渡すといったほぼ同じ人物像を演じていた。ここ2週間ほどでのオンエアにおいてである。ドラマスタッフの中で「厳格な上司役と言えば阪田マサノブ」というイメージが定着しているのは明白だ。もちろん、それが悪いこととは言ってはいない。しかし、そういったループから役者は脱却したくなるのだろう。これまで幾度も女子高生役を演じてきた白石聖は、『しもべえ』(NHK総合)の取材会で、同席した安田顕の突飛な発言の影響を受けながらも「人ではない役がやってみたいですね」と話していたのを思い出す。(※2)

 社会現象を巻き起こした作品に関わることは、一躍知名度や評価を上げることができるかもしれないが、次の代表作が生まれなければそこでイメージがストップしてしまう。熱心なファンは能動的にそのイメージを更新し続けていくが、世間はそこまで優しくはない。それが好感度の高い作品であればいいが、嫌われ者の役であれば後に降りかかる代償は大きい。佐野史郎は、1992年放送の『ずっとあなたが好きだった』(TBS系)で大ブレイクを果たした。最終回は34.1%を記録。このドラマは今もParaviで視聴できるが、その紹介文には「佐野史郎が“冬彦さん”を怪演」と記されている。冬彦は端的に言えば、マザコン男。「冬彦さん」はこの年、「新語・流行語大賞」で流行語部門・金賞を受賞し、「女性たちは身近なマザコン青年を見付けては『あの人は“冬彦さん”よ』と噂話に花を咲かせた」という(※3)。筆者はこのドラマのリアルタイム世代ではないが、バラエティ番組やラジオなどを通して「冬彦さん」というワードを知った。佐野にはほかにも『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)や『ゴジラ』シリーズなど代表作として数えられる作品はあるが、2018年に連続テレビドラマ初主演を飾った『限界団地』(東海テレビ・フジテレビ系)で演じた役柄のキャッチは“最狂の老人”、2021年放送の『言霊荘』(テレビ朝日系)でも愛憎入り混じる物語の黒幕を演じており、「冬彦さん」を入り口にして長年に渡って怪演と言えば佐野史郎というイメージが残り続けている。

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