『耳をすませば』原作から変更された雫の年齢 宮﨑駿が青春にタイムリミットを設けた意図

 もしかしたら全ては幻だったかのように消えてしまうかもしれないのだ。それでも雫たちが大人になった時、「あの頃の自分たちは輝いていた」と誇らしく思えるだけの大切な思い出となって残ることは間違いないだろう。故にそういう思い出すらない大人は虚無感に苛まされてしまう。

 だけど、宮﨑駿は雫や聖司を取り巻く大人たちにも“事情”を加えて、いつでも青春、あるいはそれに近い輝きは取り戻せることを教えてくれる。映画では、雫の母親が子育てを終えて大学院に通い始め、大学生の姉は家を出て一人暮らしを始める。さらっと描かれているが、きっと裏には葛藤や苦悩もあったはず。勉強よりも小説執筆に精を出す雫に、父親が放った「人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。何が起きても、誰のせいにもできないからね」という名言はそれを物語っているような気がする。

 聖司がバイオリンを弾き、雫が「カントリー・ロード」を歌う場面では、年老いた司朗やその仲間たちも、普段から何か小さな楽しみを見つけて日々を謳歌していることが伺えた。また、戦争によって途切れてしまった司朗の青春は雫が描いた小説の中で続いていく。今一度、映画を見返して耳をすまそう。さすれば青春の足音が小さく、少しずつ近づいてくるかもしれない。

■放送情報
『耳をすませば』
日本テレビ系にて、8月26日(金)21:00~23:19放送
※放送枠25分拡大 ※本編ノーカット
原作:柊あおい
製作プロデューサー・脚本・絵コンテ:宮﨑駿
監督:近藤喜文
音楽:野見祐二
声の出演:本名陽子、高橋一生、立花隆、室井滋、露口茂、小林桂樹ほか
©1995 柊あおい/集英社・Studio Ghibli・NH

関連記事