『耳をすませば』原作から変更された雫の年齢 宮﨑駿が青春にタイムリミットを設けた意図

 日本テレビ系『金曜ロードショー』が贈る“3週連続スタジオジブリ”企画。その第3弾として、『耳をすませば』(1995年)が8月26日に放送される。

 小説家を夢見る少女・月島雫と、バイオリン職人を目指す少年・天沢聖司の甘酸っぱい恋愛模様を描いた本作。進路や恋に悩みながらも、全力で青春を謳歌する彼らの眩しさに思わず目を細めてしまうが、同時に自分の青春時代と比較して落ち込んでしまう、“耳をすませば症候群”なる言葉も存在するらしい。

 脚本を手がけた宮﨑駿は、雫たちのような青春を送れなかった大人の気持ちなんて知ったこっちゃあないのだろうか。いや、むしろ本作はそんな大人がとうの昔に置き去りにした青春を取り戻すための物語でもある気がするのだ。

 本作は『星の瞳のシルエット』(集英社)などで知られる柊あおいの同名漫画を原作としているが、映画化に当たって様々な変更点が加えられている。最も大きくストーリーを左右しているのが、雫たちの年齢だろう。原作では中学1年生のところ、映画では高校受験を控えた3年生となっている。

 この変更により、雫や聖司は原作よりもシビアに自分の進路と向き合うことに。原作で絵描きを夢見ていた聖司は、映画ではバイオリン職人を目指しており、卒業後は修行のためにイタリア留学まで見据えている。そして、そんな聖司に恋をした雫は、彼と対等な関係になるために小説を書き始めるという展開だ。

 雫と聖司を引き合わせるのは、図書館で本を借りる時に名前を記入する「図書カード」。そのカードで互いの存在を認識した2人は、聖司の祖父・西司朗が営む不思議なアンティークショップ「地球屋」で関係性を深めていく。そんな理想的な青春に、宮﨑駿はタイムリミットを設けたのだ。

 でも、だからこそあの一瞬のきらめきが眩しい。雫は小説を書き上げるが、小説家になれたのかも、聖司がイタリア修行を無事に終えたのかも、2人の関係性がその後も続いているのかどうかも、劇中では分からない。

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