映画祭「ひろしまアニメーションシーズン2022」が紡いだアニメの未来 『犬王』生演奏も

 8月17日から8月21日まで開催された「ひろしまアニメーションシーズン2022」は、35年にわたって続いた広島国際アニメーションフェスティバルが2020年に終了となって以来初となる、広島市でのアニメーションの映画祭だ。本映画祭に期待されていたのは、「途切れかけた歴史を繋いでくれるのか」「環太平洋・アジアなど独自のテーマを打ち出したプログラムは支持されるのか」、また「商業アニメーションのファンも来場して盛り上がるイベントになるのか」といった内容だが、確かな成果を上げて終了したといえる。会期中、どのような作品が上映され、イベントが開かれ来場者の好評を得ていたのかをリポートする。

広島市にアニメーションの映画祭が"復活"

 広島市では1985年から2020年まで、隔年で広島国際アニメーションフェスティバルという映画祭が開かれていた。フランスのアヌシー、カナダのオタワ、クロアチアのザグレブと並ぶ世界4大アニメーションフェスティバルの一角を占め、世界の優れた短編アニメーションを上映・紹介していた。

 このフェスティバルが終了し、音楽なども含めた総合的な祭典として広島市が新たに立ち上げた「ひろしま国際平和文化祭」の中で、メディア芸術部門を担う企画として発足したのがひろしまアニメーションシーズン2022となる。

 会期中には、世界中のアニメーション作家から寄せられた作品を審査して、優れた作品を選ぶコンペティション、環太平洋・アジアで優れた業績を残した個人・団体・組織を表彰するゴールデンカープスター、そして、「水」「社会」「音楽」「現代日本」をテーマに厳選された世界のアニメーション作品を紹介する特集上映などのプログラムが実施された。

コンペティションでは多様な作品を評価

 広島国際アニメーションフェスティバルが担っていた、世界のアニメーションを紹介し表彰する役割を受け継ぐ形となったのがコンペティションだ。環太平洋・アジアコンペティションとワールド・コンペティションの2つがあって、ワールドコンペティションには5つのカテゴリが設定された。

 特徴は、5つのカテゴリでそれぞれに入賞作品が出る形となっている点だ。すべての作品から数点の入賞作品を選ぶ方式ではこぼれてしまうような作品が受賞を果たして、新しいイベントが目指した多様性が確保された。

 作品も、刺激的な内容のものが集まった。「社会への眼差し」でカテゴリ賞を獲得した韓国のチャン・ナリ監督による『9歳のサルビア』は、アダルトビデオを子供の前で平気で見るような父親を持つ少女が、家庭や学校でたまった鬱屈を、駄菓子屋で万引きすることで吐き出そうとする姿が、同じような苦境に喘ぐ子供たちへの想像力をかき立てる作品だった。

『9歳のサルビア』

 「物語の冒険」でカテゴリ賞となり、最終日に発表となった新イベントで最初のグランプリに輝いたスイスのジョルジュ・シュヴィッツゲーベル監督『ダーウィンの手記』は、南米からイギリスへと連れてこられた原住民を故郷に戻そうとしたダーウィンの手記が元となった作品だ。文明に触れた原住民を通して文化や信仰が広まるかと期待したものの、うまく行かなかったことに憤る西洋人の独善ぶりがうかがえる内容が支持を集め、観客賞も受賞した。

『ダーウィンの手記』

 短編中心だった以前はなかった長編作品のコンペティション入りもあった。「社会への眼差し」のカテゴリで上映されたアメリカ/オランダ製作によるレイ・レイ監督『銀色の鳥と虹色の魚』は、祖父と父親が経験した中国における大躍進政策や文化大革命の発動が、家族の日常にどのような影響を与えていたのかを、粘土を使ったストップモーションアニメーションと写真によるコラージュで描いて、現代に当時の雰囲気を伝えていた。

『銀色の鳥と虹色の魚』

 長編も含めて作品を募り、カテゴリ別に上映してどのような傾向の作品を見られるのかを分かりやすくしたことで、来場者には親切で参加したアニメーション作家にも入賞の可能性を得やすいフェスティバルといったポジションを、とりあえず示せたと言えそうだ。

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