『初恋の悪魔』坂元裕二×安田顕のタッグに外れなし! 落ち着きの中にある可笑しみが光る
7月期ドラマの中でも異彩を放っているのが、坂元裕二脚本の『初恋の悪魔』(日本テレビ系)だろう。W主演を務める林遣都&仲野太賀を筆頭に捜査権を持たない警察関係者4名が事件を考察し、馬淵(仲野太賀)の兄で刑事だった朝陽(毎熊克哉)の殉職事件の真相に迫る。
なんとも個性豊かでこじれている4人の近くで、気になる存在感を放っているのが謎の男・森園(安田顕)だ。よりにもよって、凶悪犯罪に目がなく、停職処分中の刑事・鹿浜(林遣都)の隣家に住んでおり、彼の格好の観察対象となっている。
自宅内では奇怪な行動を見せ怪しい雰囲気を纏っているものの、外で会うと挨拶をしてくれ非常に礼儀正しい印象を受ける自称作家・森園。第3話では遂に鹿浜の自宅にシャベルを持って乗り込んできて、彼の自宅に設置されている監視カメラの存在を言い当てる。本人いわく“森園の妻”だと言い張る野上千尋(荻原みのり)以外にも女性を自宅に連れ込んでいたりと、素性不明だ。
しかし、このあまりに不思議な森園という男も、安田の手にかかれば軽やかで無理がない。自宅内での奇妙な動きも、手にシャベルを持ち血塗れで立っているホラーな絵面もなぜだかそこには可笑しみがあるし、完全な“悪”や“敵”とは思えず、こちらもいつの間にやら気を許し、懐に招き入れたくなってしまう人懐っこさまである。思わず、ポロッと悩みを打ち明けたくなるような気楽さと好奇心を刺激される魅力がそこにはあるのだ。ただでさえ歪で凸凹な馬淵ら4人に、現時点では立ち位置不明の森園も合流していくことになるのだろうが、不協和音を発しながらもなんだかんだそこに溶け込んでしまう森園の姿が想像できてしまう。
坂元裕二と安田顕の初タッグドラマ『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)では、女装好きのゲイでパティシエの几ハイジ役を好演していた。主人公の田中たま子(真木よう子)率いる女性メンバーの中にすっかり溶け込み馴染んでいたのが印象的だった。本作にも出演中の松岡茉優扮する極度の対人恐怖症のシェフ・雨木千佳に対して、常にパーカーを着ていることから「パーカーちゃん」と名付ける、そんなハイジのチャーミングな優しさも素敵だった。個性豊かなメンバーを束ねたり、その中心になったりするわけではないが、そこにさらなる彩りを添え、取りこぼされてしまいそうなものをきちんと受け止めてくれる安心感と受容力を携えているのが安田の魅力だろう。うるさくもしつこくもないけれど、かやくご飯には絶対に外せない具材のような存在だ。