『となりのトトロ』は大人たちにも向けた夢物語 自然と隣り合わせの生活に癒やされる

『となりのトトロ』が描く自然と共生する生活

 夏が来た。さあ、トトロのいる森へ――。『金曜ロードショー』(日本テレビ系)の夏休み特別企画であるスタジオジブリ作品3週連続放送。第2週目は、日本人の心のふるさとともいえる不朽の名作『となりのトトロ』が放送される。

 2022年11月1日に愛知で開園予定の、三鷹の森ジブリ美術館に次ぐスタジオジブリ公式スポットとなるジブリパーク。全5エリアに分かれた園内で、森や道をそのままにジブリ作品の世界観を感じられるテーマパークとなっている。

 『となりのトトロ』の世界を彷彿とさせる「どんどこ森」では、劇中でサツキとメイが引っ越してくる家を中心に散策路や小路などが設置され、まるでサツキたちと一緒に自然を散策しているかのような気持ちになれるのがポイントだ。

 ジブリパークの開園に先立ち、今回は『となりのトトロ』がなぜ日本人に愛され続け、人々の心に残るのか、その魅力を改めて綴っていきたいと思う。

 まず、本作で重きを置かれているのが“子ども”と“大人”という区切り、そして“世界のすべてを吸収しようとする幼少期にしかない、得難き体験”というものだ。

 子どもから大人へ、という通過儀礼は誰しもが通る道である。残酷ながら大半の人間はその通過儀礼で、世界のすべてに興味を持つまなざしと好奇心を失い、分別がついた視点で現実を見るようになる。

 『となりのトトロ』は大人たちがそうなってしまう前のごく限られた特別な瞬間を切り取っている作品だからこそ、多くの人々に共通するノスタルジーを呼び起こすのだ。

 サツキの妹・メイがバケツに空いた穴を覗いておたまじゃくしを見つめ、中トトロと小トトロを追いかけるシーン、また姉妹でどんぐりを庭に埋めて、夜中に訪れたトトロたちと芽吹きを見守り、大樹の周りを飛ぶシーンなどは、まさに“子どもの空想力”の成せるわざだ。

 トトロは彼女たちの夢を叶えてくれる。こうであったらいいなという空想を、現実にしてくれる。トトロは子どもたちにしか見えておらず、実際には何も起きていないのだが、それこそが本作の見せる温かくて優しい“子どもたちだけならず、大人たちにも向けた夢物語”なのである。

 またあの頃に戻りたい。あの頃のように、小さな生き物や雄大な自然や、存在しない空想上の友達と遊びまわりたい。そんな願望を抱かせ、観た者を“あの夏”に引き戻す強烈な郷愁と懐古が、本作の中には内包されているのだ。

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