劇場版『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』は親子で楽しめる一作 5人揃った“名乗り”も必見
夏休みの映画といえば、小学生の頃に立ち見の客もいる満員の映画館で、父と『東映アニメフェア』を観たことを思い出す。内容やストーリー以上に、映画館の熱気や、忙しい父が映画に連れて行ってくれた嬉しさを、今でも思い出せる。
近年、遊びやコンテンツが多様化し、夏休みに家族で映画館という過ごし方は減っているのかもしれない。7月22日に公開された『暴太郎戦隊ドンブラザーズ THE MOVIE 新・初恋ヒーロー』が、筆者自身、親子で一緒に鑑賞した初めての映画となった。
掟破りの多い『ドンブラザーズ 』
スーパー戦隊シリーズ『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(テレビ朝日系)は、昔話の桃太郎をモチーフにした作品。レッドのドンモモタロウ/桃井タロウ(樋口幸平)に、お供であるブラックのイヌブラザー/犬塚翼(柊太朗)、ピンクのキジブラザー/雉野つよし(鈴木浩文)、ブルーのサルブラザー/猿原真一(別府由来)、イエローのオニシスター/鬼頭はるか(志田こはく)らとともに、人間の欲望から生まれるヒトツ鬼に立ち向かう。
史上初の男性ピンクがいたり、本編では未だにイヌブラザーと他のヒーローがお互いの素性を知らなかったり、タロウが一度姿を消し、身代わりとして追加戦士のドンドラゴクウ/桃谷ジロウ(石川雷蔵)が登場するなど、目が離せない展開が続く。コメディ色が強いながらも練り込まれた緻密なストーリーと、常に予想を裏切る展開に、親子ですっかり夢中になっている。劇場版も、予告編からの期待通り、ドンブラザーズらしさ満点のお祭さわぎ、ジェットコースターのような30分が待っていた。
劇場版は、新人女優賞を受賞した、鬼頭はるかがドレスを着て壇上でスピーチをする場面から始まる。テレビシリーズの第1話と第10話で、漫画家のはるかが漫画賞を受賞したシーンがある。すんなりと受賞式が進んだことはなく、映画でも同様の展開が予想でき、「ドンブラザーズが始まったな」と期待が高まる。
漫画家だったはずのはるかが女優賞受賞の舞台にいるのは、ドンブラザーズたちが、映画に出演したからだ。王道少女漫画『新・初恋ヒーロー』を原作とした映画製作が決まり、タロウたちはプロデューサーの三枝(島崎和歌子)からスカウトされる。『新・初恋ヒーロー』は、はるかが“盗作疑惑”をかけられるきっかけになった作品でもある。作者の椎名ナオキは素性を全く明かしておらず、「何かヒントがあるかもしれない!」とはるかは意気込むが……。
はるかの示す新たなヒロイン像
鬼頭はるかは、劇中設定も演者自身も17歳と、メインキャストで最年少。テレビシリーズは彼女の視点でストーリーが進む。漫画家として活躍し、盗作疑惑をかけられ友人から“トウサク”と呼ばれても、怯まずにヒーロー生活を楽しんでいるようにすら見え、30代サラリーマンの雉野つよしはじめ、年上にも臆さず、いつも周りにツッコミを入れる。バリエーション豊かな変顔を披露するなど、はるかを演じる志田こはくが魅せるコメディエンヌぶりが、映画でも冴え渡っている。
ドンブラザーズたちの敵対勢力で、人外で完璧な存在である“脳人”の3人も、映画に出演。完璧な脳人は、映画に向き合う姿勢も真面目で、監督の指示に忠実に従おうとするも、「完璧すぎてつまらない」と外されてしまう。タロウが主役に抜擢され、「ここでもタロウが主役なのか……」と、メタ発言とともに悔しがる。人間や芸術を理解したいソノイたち脳人は、「映画は芸術だ」と考えており、監督に頼み込んで出演させてもらうことに。
主役に抜擢されたタロウとはるかの“棒”演技は、表情や声色、セリフの言い方のクセが強すぎて、観ていて不安になるほどだ。プロデューサーの三枝も「やっぱり素人に演技は無理だったか……」と思うも、巨匠・黒岩監督(姜暢雄)が「求めていたのはこれだ!」と言う。撮影しながら、「映画は爆発だ!」「自己を解放しろ〜!!」と、どんどんヒートアップしていき、とうとうヒトツ鬼に変身してしまう。戦いながら撮影が進み、かなりはちゃめちゃだ。
ヒロインを演じるはるかの隣を走り続けながら、ヒーロー役がどんどん入れ替わっていくシーンは、お笑いコンビ笑い飯の「ちょっと替われ」を思い起こした。これだけ個性あふれる登場キャラクターが次々隣に来ても、飲み込まれずにらしさを発揮し続けるはるかは、凄みさえ見える。