『エルヴィス』など音楽伝記映画で語られる、ミュージシャン×マネージャーの様々なドラマ

 ブライアン・ウィルソンを描いた『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(2015年)に出てくる精神科医、ユージン・ランディはマネージャーではないけれど、ビジネスパートナーとして公私にわたってブライアンに関わった。ユージンは精神的な問題を抱えたブライアンの治療をするうちに、ブライアンの作品に口を出すようになり、やがてブライアンのアルバムにライターとして参加。ユージンはブライアンを薬漬けにしてコントロールして、ブライアンの全ての仕事を取り仕切るようになる。『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』では、1960年代のブライアンをポール・ダノ、1980年代のブライアンをジョン・キューザックが演じるというユニークな演出になっていて、1960年代にブライアンが父親から受けた精神的な虐待と、1980年代のユージンの精神的支配を重ね合わせていた。ブライアンは自分を心から愛してくれる女性、メリンダと出会うことでユージンから解放され、ようやく心の平安を手に入れるのだ。

 これまで挙げてきたように、音楽伝記映画に登場するマネージャーはアーティストを追いつめる悪役が多い。そんななかで異色なのが『僕たちの時間』(1991年)だ。ビートルズがデビューして間もない1963年。初めての息子、ジュリアンが生まれたばかりのジョン・レノンは、ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインとスペイン旅行に出かける。同性愛者のエプスタインはレノンに惹かれていて、レノンはエプスタインの鋭い感性をリスペクトしていた。そんな2人が異国でどんな時間を過ごしたのか。2人が旅行したことは事実だが、映画では自由に想像を羽ばたかせて、2人の揺れ動く関係を繊細なタッチで描き出している。レノンを演じたイアン・ハートは、3年後に『バック・ビート』(1994年)で再びレノンを演じたくらいレノンにそっくり。本作で描かれたミュージシャンとマネージャーの関係は、音楽伝記映画史上もっともロマンティックなものかもしれない。ビジネスの関係を超えて、時として愛や欲望が渦巻くミュージシャンとマネージャーの関係。そこには様々なドラマが隠されているのだ。

■公開情報
『エルヴィス』
全国公開中
監督:バズ・ラーマン
出演:オースティン・バトラー、トム・ハンクス、オリヴィア・デヨング
配給:ワーナー・ブラザース映画
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