『エルヴィス』など音楽伝記映画で語られる、ミュージシャン×マネージャーの様々なドラマ

 これまで何度かエルヴィス・プレスリーの伝記映画が制作された。そんななかで、バズ・ラーマン監督の『エルヴィス』がユニークなのは、プレスリーを見出したマネージャー、トム・パーカー大佐が物語の語り手になっていることだ。

 プレスリーとパーカーとは様々な点で対照的で、セクシーでステージでカリスマ性を発揮するプレスリーに対して、パーカーは垢抜けない商売人。プレスリーは音楽のことしか考えないが、パーカーの頭の中は金のことだけ。プレスリーのグッズを売り出す際には「I Hate Elvis」というバッジも売り出して、プレスリーを嫌う人々からも金を巻き上げようとする。エルヴィスに匹敵するくらい、パーカー大佐の存在感を際立たせることで、エルヴィスの人生の光と影のコントラストは強くなり、物語はよりドラマティックになった。パーカーはプレスリーの成功の「影」の象徴。そんなパーカーを、善人役が多かったトム・ハンクスが演じて役者としての新境地を切り開いていた。

『エルヴィス』(c)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

 これまでにも、音楽伝記映画にはミュージシャンとマネージャーの微妙な関係が描かれてきた。近年で印象に残っているのは『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)のフレディ・マーキュリーとポール・プレンターだ。フレディの恋人でもあったプレンターは、フレディを独占しようと嘘を並び立ててクイーンのメンバーやスタッフからフレディを遠ざけた。その思惑に気がついたフレディに解雇されたプレンターは、フレディとの関係をマスコミに暴露して復讐する。映画では、プレンターはフレディを誘惑して堕落させる悪魔的な存在として描かれていた。

『ボヘミアン・ラプソディ』(c)2018 Twentieth Century Fox

 『ロケットマン』(2019年)のエルトン・ジョンとジョン・リードの関係も愛憎入り混じっている。LAのパーティで、密かに思いを寄せていた作詞家のバーニー・トーピンが女性と仲良くしているのを見て傷心のエルトン。そこに現れるのが、スーツをパリッと着こなしたリードだ。実際に2人が出会ったのは別の場所だったらしいが、映画ではロマンティックに演出している。やがて2人は恋仲になるが、次第にリードはエルトンを支配して休みなく働かせるようになっていく。映画で描かれるリードは、愛よりもビジネス。パーカー大佐よりも冷酷にエルトンから金を絞りとる。リードはエルトンと別れた後、クイーンのマネージャーをやっていた時期があって、映画『ボヘミアン・ラプソディ』にも登場していた。フレディとプレンター、エルトンとリードの関係は、そこに恋愛感情が絡むことで複雑な人間ドラマを生み出していた。彼らの関係はラヴストーリーの変奏曲でもあるのだ。

『ロケットマン』(c)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

 一方、パーカー大佐のように、バンドで大儲けを狙ったマネージャーが登場するのが『ランナウェイズ』(2010年)だ。舞台は75年のLA。プロデューサーのキム・フォーリーは、当時は珍しかった女性バンドを作ってデビューさせれば売れること間違いなし! と目論む。そこでフォーリーは、エレキ・ギターに夢中になっているジョーン・ジェットや、デヴィッド・ボウイの真似をしてコンテストで優勝したシェリー・カーリーなど、ロック好きの女の子を次々とスカウト。みずからプロデューサー/マネージャーを務め、平均年齢16歳のガールズ・バンド、ランナウェイズを結成させる。本作はダコタ・ファニング(シェリー)やクリステン・スチュワート(ジョーン)がランナウェイズを演じたことでも話題になったが、フォーリー役のマイケル・シャノンの怪演ぶりも忘れられない。いかつい顔にアイシャドウをつけ、革ジャンを着たフォーリーはどこから見てもいかがわしいが、バンドを影で操るフォーリーは男性社会の音楽業界を象徴する存在でもあった。

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