恋愛と食欲をカラフルに描く 『ワンナイト・モーニング』一夜に詰まった“幸福な切なさ”

 人間の三大欲求は、「食欲」「睡眠欲」「性欲」だという。性欲については議論の余地があるかと思うが、日本独自の区分けともいえるこの三大欲求とは、人間が生存するための本能に即するものだそう。つまりは人間が誕生してからずっと付き合い続けてきた存在でもあるわけだ。となれば当然、これらを題材にした映画も約120年の歴史の中で多数生み出されてきた。

 睡眠でいうと、『恋愛睡眠のすすめ』のように夢の中の世界を描くものや『マシニスト』や『インソムニア』『悲夢』といった「眠れない」恐ろしさに言及したものがあるが、性欲を他者とのつながり――友情や絆、恋愛への願望のひとつと解釈すると(少々強引ではあるが)、食とセットで語られることがかなり多い。

 『食べて、祈って、恋をして』、『食べる女』、『にがくてあまい』、『失恋めし』(読売テレビ)等々、国内外問わずに多くの映像作品がコンスタントに世に出てきており、食を通じて他者との相互理解を深め、特別な関係性を築くさまが描かれてきた。話題のマンガ『作りたい女と食べたい女』(KADOKAWA)もそうだし、他者の救済としての食をテーマにした『深夜食堂』(小学館)等々、誰かとつながる装置でもあるわけだ(その逆説が、ひとり飯を描いた『孤独のグルメ』(テレビ東京系)であろう)。

 もう少しセクシャルな側面を強くするなら、青年誌系のマンガに食×性の作品は数多い。その中でも一際、刹那の関係がゆえの切なさをも描き出すのが奥山ケニチによる『ワンナイト・モーニング』だ。

 本作は、毎話「梅干しのおにぎり」「ハニートースト」「そうめん」「牛丼」といった料理をフックに、男女のつややかな一夜とその後の朝ごはんの時間を描く物語。各エピソードが独立しており、同級生や同僚、初対面の相手と忘れがたい“ワンナイト”を過ごし、朝ごはんを共にしてそれぞれの生活に戻っていく。言ってしまえば、先に挙げた人間の三大欲求「食欲」「睡眠欲」「性欲」のすべてをカバーした作品なのだ。

 とはいえ、「欲」といってもギラギラした脂っこいものではなく、むしろ「ワンナイト」という限定的な関係性が醸し出すビターな味付けが効いている。昔憧れていた同級生と同窓会で再会し、夢のような一夜を過ごすも朝起きたら……というような永続性のなさ、あくまで一夜限りの特別な関係である、というフォーマットがドラマ性を引き立て、哀愁がそこはかとなく漂うのが『ワンナイト・モーニング』の大きな特徴といえるだろう。

 登場する料理も「朝ごはん」という点が効いており、庶民的×手作りのものも多く、より個々人の記憶にこびりつきやすい。朝ごはんはいわば生活臭漂う行為ともいえ、かりそめであっても生活習慣を共有した男女が、食べ終えたら終わってしまう関係だったり一夜を共にしても本名を知らない間柄であるというギャップが、哀しみを引き立てる。本来であれば重ならないゾーンに生きていた男女が、心と体をほんの一時重ね合わせる交錯点――それが『ワンナイト・モーニング』で描かれる“一夜”であり、あくまで“点”であるため両者はまた離れていくという構造も上手い。

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