大学を卒業すること。一般企業に勤めること。異性と結婚し、子供をもうけること。そういう、ふわっとした“普通”や“幸せ”の形にねじ込まれていく人たちが描かれた『プリズム』（NHK総合）第3話。

　陸（藤原季節）が手がけるリガーデンプロジェクトに、ガーデナーの白石（森山未來）が加わった。世界中を旅し、各地で自然と共に生活を送ってきた白石。その確かな知識と、独特の柔らかい雰囲気に皐月（杉咲花）は好感を持つ。彼が陸と、一度は心を通わせた相手であることを知らずに。

　陸を演じる森山未來は、2017年放送の『みをつくし料理帖』（NHK総合）以来、約5年ぶりの連ドラレギュラー出演となった。自身を“俳優”という形に押し込めず、場所と手段を変えながら、自由に内なる表現欲を消化させてきた彼と白石の生き方がぴったりと重なる。

　「僕らがありのままで立てる庭を作りたい」とは、森山が藤原季節に伝えた言葉だ。（※）ちゃんと息ができるように山苔を流木に着生させるのと同じく、森山に生かされた白石は自然体でそこにいる。社会の枠組みに自分を合わせたりはしない。

　対照的に描かれたのは、皐月の幼なじみである剛（寛一郎）だ。25歳という若さで地元企業の副社長となった彼は、父親に結婚を急かされているらしい。理由は独身でいると舐められるから。一人で生きていくこと。それがなぜか、この国では責任感がないとされる。

　それこそ、何の根拠もない妄言をすっかり信じ込まされた剛に皐月は「いつかダメになる結婚ならしないほうがマシでしょ」と言った（第1話より）。幼い頃の皐月は目の前で、両親の結婚生活が破綻していくさまを為す術もなく眺めていたのだから。そんな彼女を剛は、自分が身を置く“普通”の檻に引き込もうとする。

　学生時代、皐月の少ない昼食を見かねて同級生に買い出しに行かせたのも、皐月が母親と離れて暮らすことに苦言を呈すのも、剛は父親と同じように自分が思う“普通”を皐月と共有したに過ぎない。社会的洗脳は連鎖していく。洗脳する側も無自覚なのが辛いところだ。