『ちむどんどん』山中崇演じる田良島が視聴者の“代弁キャラ”に定着? その爽快感と危険性

 NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に、とある変化が見受けられてきた。放送開始時から脚本の整合性やキャラクターの言動において、やや賛否両論ある本作。放送開始までに撮影されていたであろうパートを過ぎた以降、こういった視聴者の声を受けていわゆる“テコ入れ”をするのは決して珍しい話ではなく、本作も何かしらの変更があるのではないかと考えられてきた。

 しかし、興味深いことに主人公の暢子(黒島結菜)の我が道の行きっぷりは相変わらずで、むしろ和彦(宮沢氷魚)を巡る愛(飯豊まりえ)との三角関係においてはさらにそれがレベルアップした様子。自分も知り合って数年となる愛に、和彦が好きであることをためらいなく伝え、自分の気持ちは封印すると宣言。しかし、今度は和彦が暢子のことが好きで仕方なくなってしまい、愛の前で「暢子の料理が一番美味しい」などデリカシーのない発言を平気でするようになってしまった。暢子も無邪気すぎるというか、愛への配慮が一切ない振る舞いが特に目立ってしまい、最終的にはほぼ“略奪”とも言える状況に。

 初期の頃は暢子の兄・賢秀(竜星涼)の暴挙が目立ち、彼が本ドラマにおける一種の“ヒール役”を買って出ていた。しかし、心なしか賢秀の方が落ち着いてきた一方で、暢子をはじめとする他のキャラクターのたがが外れてきてしまったように思えるのだ。冷静沈着に思えた和彦は、優柔不断な浮気男に、智(前田光輝)は怖いくらい自分の考えを相手に押し付ける暴走男にと、生徒や博夫(山田裕貴)とのいざこざが会った良子(川口春奈)含めて皆が「他者の気持ちを考えられない」キャラクターに降格している。こういった問題のあるキャラクターに試練を与え、反省させ、精進させる「成長」を描くのが普通テコ入れでやりそうなことであるのに対し、『ちむどんどん』はむしろ突き進んでいっている。

 ただ、より過激になっただけではない。そこに、そのあまりにも酷いことをするキャラクターを叱るという“視聴者の代弁者”を設けたのだ。それが、田良島(山中崇)の立ち位置となりつつある。

 田良島はもともと、本作の中でもかなり良識的な人間として登場した。今思い返すと、初登場時も世間知らずの暢子に“知”と“学び”を身に付けさせた役回りとして印象深い。その後も、和彦の原稿を応援したり、ファッション企画について悩んでいた愛の背中を押したりと、彼は部下に野心を抱かせて応援する良い上司として活躍する。とりわけ、時には汚い手を使って和彦の原稿を世に出させるような“正し過ぎない”雰囲気も良く、“哀愁に満ちた中間管理職”の彼は本当に魅力溢れるキャラクターだ。何より、彼の言葉は投げかけられた登場人物を超えて、私たち視聴者の心に響くものがある。そんなふうに我々の信頼を勝ち得ている彼だからこそ、“代弁キャラ”にピッタリなのだ。

 その片鱗は以前からありつつも、第71話でより強調して描かれたような気がする。仕事を振られるも、愛から別れを告げられたせいで「少し時間をください。まだ気持ちの整理がつかなくて……」と落ち込む和彦に対し、「無理もない。しばらくゆっくり休め……とでも言ってもらえると思ったか? お前の煮え切らない態度と余計な優しさのせいで大野も暢子ちゃんも傷ついた。婚約者と幼なじみのはざまで散々迷走した挙句、土壇場で婚約者に別れを切り出そうとしたら逆に振られて傷つき、それではこっちと幼なじみに告白したら、そっちにも拒絶された。アッハッハ!」と捲し立てる彼の意見は的確でシャープな分析だ。

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