映画『ゆるキャン△』で描かれた“ゆるくない”現実 キャンプ場作りから社会問題を考える
完全オリジナルストーリーで映画化された『ゆるキャン△』が、話題を呼んでいる。TVアニメでは、「女子高生×キャンプ」のミスマッチや、実在の観光地が登場することなどで話題となり、キャンプ/アウトドア初心者や、女子キャンパーのバイブル的な存在としてブームの火付け役の一つとなった。映画では、高校を卒業しそれぞれの職に就いた彼女たちが、自らの手でキャンプ場を作るために奮闘するストーリーが描かれた。キャンプの楽しさに重点が置かれていたTVアニメとは異なり、仕事や夢に対する向き合い方や、自分の思いを実現させるために必要なことが描かれた、ある種の“お仕事ドラマ&夢の実現ストーリー”といった趣で、これまでとは違った輝きを放っている。
女子高生たちがアウトドアを楽しむ様子をコミカルに描いた、あfろ原作の漫画は、2015年から『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)で連載がスタート。コミックスは13巻まで発刊され、累計1500万部を超えるヒット作となっている。TVアニメは2018年に1期『ゆるキャン△』、2020年にショートアニメ『へやキャン△』、昨年2期となる『ゆるキャン△ SEASON2』が放送。2020年には福原遥、大原優乃らの出演で実写ドラマ化、昨年ドラマ『ゆるキャン△2』(テレビ東京系)も放送され、好評を得た。
ソロキャンプを愛しながら、なでしことの出会いによってみんなと楽しむキャンプの魅力にも気付いた“志摩リン”。リンに感化されてキャンプの魅力に目覚め、最初は素人だったが『ゆるキャン△ SEASON2』ではソロキャンプに挑戦するまで成長した“各務原なでしこ”。野クル(野外活動サークル)の部長で、なでしこをキャンプの世界に引き込んだ“大垣千明”。野クルのメンバーで、おっとりした性格と関西弁で周囲を和ませる“犬山あおい”。そして、リンの友達で当初は傍観していたが、みんなの楽しそうな様子に、気づけば自らもキャンプに参加していた“斉藤恵那”。映画『ゆるキャン△』は、原作者のあfろ監修による完全オリジナルストーリーで、社会人として働くリンやなでしこたちが、大垣千明の呼びかけで久しぶりに全員集合し、自分たちでキャンプ場を作るために奔走する。今年に入って成長したリンたちのキービジュアルが次々と公開されると、意外な大人の姿と映画に対する期待が高まった。
リンは山梨を離れ、名古屋の出版社に勤めていた。TVアニメでは図書委員として、よく学校の図書室で恵那と話したり、窓からなでしこたちを眺めていた。また本屋でアルバイトをしているシーンや、ソロキャンをしながら本を読む姿も描かれており、本好きのリンらしい就職先だと言える。キャンプ場作りに没頭する間、実は先輩や編集長がリンの仕事を肩代わりしてくれていたことを知り、迷惑をかけてしまったことに落ち込むが、先輩からの言葉で、仕事は責任感も必要だが時には仲間を頼ることもまた必要であることを痛感する。仕事を一人で任されることが増えた時期に、多くの社会人が陥りがちな落とし穴に、自分を振り返ってハッとさせられた人も多いだろう。
なでしこは、東京のアウトドア店に勤務していた。最初はアウトドアに関して全くのド素人で、火をおこすこともテントを張ることさえもひと苦労だったのが、『SEASON2』ではソロキャンプをやるまでに成長していた。そのソロキャンプのエピソードとして、キャンプに無関心でコンビニ弁当をお湯で温めようとしていた姉弟に、野菜をホイルで巻いて焼くだけの簡単料理を振る舞って、キャンプの魅力を伝えようとした話が印象的。
キャンプ愛は人一倍で、キャンプギアを買いに来たカップルに「もっといい商品がある」と、よその店の商品を紹介してしまうほど。それには店長も呆れつつ、次期店長候補として一目置かれている。また、ガスランタンを見に来た女子高生にはかつての自分の姿を重ね、優しく見守るような視線で対応する姿にもほっこりさせられた。ソロキャンを経験したことで、改めてみんなと楽しむキャンプの魅力に気づき、キャンプの魅力をも多くの人に伝えたいとの思いに至ったのかもしれない。もしかするとキャンプ知識は、すでにリンよりも上かもしれないことを想像すると、人生は面白いものだなと感じる。
キャンプの達人であったリンが出版社、キャンプ素人であったなでしこがキャンプ用品店というのは、意外さ半分納得半分で、夢の持ち方や夢と仕事の距離の取り方などはそれぞれであると、つくづく感じる。今、就職活動を行っている学生や進路で悩んでいる人にとっては、選択肢選びの一つとして参考にすることができるかもしれない。