ストリーミング全盛時代の視聴者を満足させる 犯罪実録ドラマシリーズ流行の3つの理由

犯罪実録ポッドキャストの流行

 アメリカでポッドキャストの人気が爆発したのは、「トゥルークライムもの」と呼ばれる、犯罪を扱った実録番組が大きなきっかけになった。『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』の原作もABCニュースが製作したポッドキャスト『The Dropout』(https://abcaudio.com/podcasts/the-dropout/)。スタンフォード大学をドロップアウト(退学)しセラノスを起業し、時価総額90億ドルにまで育てたエリザベス・ホームズがいかにドロップ(堕ちて)していったかを音声ドキュメンタリーにしている。ほかにも有名なところで、ウィル・フェレルとポール・ラッドが主演した『となりの精神科医』(Apple TV+)、実録犯罪物ばかりを扱うアンソロジーシリーズの『Over My Dead Body』のシーズン2に登場する「Joe vs. Carole」などがある。「Joe vs. Carole」は、パンデミック中に一斉を風靡したNetflixのドキュメンタリーシリーズ『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者?!』(2020年~)のジョー・エキゾチックとキャロル・バスキンの抗争を主軸にしたシリーズで、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001年)のジョン・キャメロン・ミッチェルがジョー、ケイト・マッキノンがキャロル役を演じたドラマシリーズがPeacockで配信されている。こういった犯罪実録ポッドキャストの世界を描いたドラマ『真相 - Truth Be Told』(Apple TV+)もシーズン2まで作られている。ところで、『タイガーキング』は昨年11月にシーズン2が配信されているのだが、誰か観たのだろうか?

時代を読むアダム・マッケイ

 こういった政治・経済・社会に悠然と存在している犯罪ギリギリの者たちの生態をおもしろおかしく描く作風は、アダム・マッケイが牽引していると言っても過言ではない。製作会社を共有していた盟友ウィル・フェレル主演の『俺たちニュースキャスター』シリーズや、『俺たちスーパー・ポリティシャン めざせ下院議員!』(2012年)といったフィクション作品にもその片鱗が見られ、サブプライムローン危機とウォールストリートの狂騒を描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015年)、ディック・チェイニー副大統領(クリスチャン・ベール)の実像を暴く『バイス』(2017年)などは明らかだ。Netflix映画『ドント・ルック・アップ』(2021年)はそれらの悪事ギリギリの政治家や企業を皮肉った作品だったし、製作総指揮を務めるドラマシリーズ『サクセッション』(2018年~)も、その系譜にあると言える。なお、エリザベス・ホームズの事件は、Apple TV+用映画『Bad Blood(原題)』としてアダム・マッケイ監督、ジェニファー・ローレンス主演で現在制作が行われている。こちらは、ウォール・ストリート・ジャーナルに掲載された『BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相』(集英社刊)が原作となっている。

 こうした犯罪実録ものをアレンジしたコンテンツが増えている背景には、プラットフォームや作品が増え、さらに刺激の強いコンテンツを出していかないと視聴者を惹きつけておけない事情もあると思う。だが、エリザベス・ホームズを演じるアマンダ・セイフライド、アンナ・ソローキンを演じるジュリア・ガーナー、レベッカ・ニューマンを演じるアン・ハサウェイらは、従来の美しく品行方正な女性キャラクターよりも、こういった“アンチヒロイン”を数段魅力的にいきいきと演じている。レディー・ガガがグッチ一族を崩壊させるファム・ファタールを演じた『ハウス・オブ・グッチ』(2021年)然り、この流行は今後も続いていくと思われる。

■配信情報
『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』
Photo by: Beth Dubber/Hulu

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