『オビ=ワン・ケノービ』の予想もしなかった新説 最終回のオビ=ワンを象徴する台詞

 遠い昔、『スター・ウォーズ』プリクエル3部作が製作される遥か以前、次なるトリロジーはダース・ベイダー=アナキン・スカイウォーカーの若き日を描くものになるとファンの間では認知されていた。実写新作が毎年のようにリリースされる現在では想像もつかない事だが、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』から『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』まで実に16年ものブランクがあったのだ。いつしか公式情報とファンセオリーは入り混じり、僕たちは『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』が公開されるずっと以前から“アナキン・スカイウォーカーはオビ=ワン・ケノービと火山の惑星で決闘の末、重度の火傷を負い、ダース・ベイダーになる”という物語を知っていた。『スター・ウォーズ』は口承伝説だった。『シスの復讐』が公開された後も、終幕ラーズ夫妻にルークを預け、砂漠へと消えるオビ=ワンの姿にこれから背負う永遠にも思える19年の孤独と、かつての師匠クワイ=ガン・ジンとの修行によってフォース霊体化の秘術を習得する……という『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』に連なるまでのそう多くはないであろう物語に思いを馳せ続けた。

 ディズニープラスで配信された全6話のリミテッドシリーズ『オビ=ワン・ケノービ』は、新たに発掘されたスター・ウォーズサーガの新説だ。『シスの復讐』から10年後、オビ=ワン・ケノービは岩屋の隠者ベン・ケノービとして厭世の日々を送っていた。かつて栄華を誇った銀河共和国はファシズムに染まり、圧政と恐怖が支配する中、オビ=ワンはルークの成長を見守るという使命のためジェダイの身分を隠し続けなければならない。だがオーウェン・ラーズ(『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』で初出演時はまだ無名にも近かった名優ジョエル・エドガートンが再演している)は我が子のように愛情を注いでいるルークに、オビ=ワンが近づくことを良しとしない。デボラ・チョウ監督はTVシリーズならではの腰の据わった語り口で、この第1話〜第2話を描いていく。ディズニープラスではおそらくギリギリであろう、暴力描写もある。そして『シスの復讐』から17年を経て、今や押しも押されぬ名バイプレーヤーへと成長したユアン・マクレガーのオビ=ワン・ケノービ再演を目撃することは、このドラマの喜びだ。

 さらに、『オビ=ワン・ケノービ』には予想もしなかった新説が次々と登場する。オビ=ワンはベイル・オーガナからの要請により、誘拐されたレイア姫を救出すべく再び宇宙へと飛び立つ。達者な子役ヴィヴィアン・ライラ・ブレアは懸命な演技で故キャリー・フィッシャーへのリスペクトを体現している。ダース・ベイダーとオビ=ワン・ケノービが再三に渡って剣を交えることにも驚かされた(「宿命の環が閉じる」という台詞にはこんな因果があったのか)。『ジェダイの帰還』でレイア姫が母親の記憶を語ったことには相変わらず整合性が取られていないが、代わりに本作ではオビ=ワンとの間に感動的な場面が用意されている。過去作との矛盾をあげつらう者もいるかもしれないが、新作が作られる度に熱狂し、文句を言う愛憎は『スター・ウォーズ』ファンにとってもはや逃れ得ない宿命だ(いっそのことマルチバース設定くらいに思った方が気楽かもしれない)。

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