『シン・ウルトラマン』『トップガン』が話題の今、再評価したい『ULTRAMAN』

 そして、『ULTRAMAN』を圧倒的に面白くしているもう1つの要素が『トップガン』的展開だ。主人公・真木は「F-15 イーグル」のエースパイロットでありながら、ある理由で戦闘機に乗ることを諦め、民間の会社に転職する。そこからウルトラマンとしての力が覚醒し、大切なものを守るために戦う運命を受け入れ、もう一度“空を飛ぶ”ことを決意する。この流れは1作目の『トップガン』に通ずるものがあるし、『トップガン マーヴェリック』でマーヴェリック(トム・クルーズ)が相変わらず飛ぶことをやめられない人間であるように、真木も空に憧れ続ける人間として描かれていた。まるで戦闘機のように雲を切って進むウルトラマンの斬新な飛行姿や、ドッグファイトさながらに攻防する怪獣とウルトラマンの空中戦なども迫力満点で、当時のCG表現としてはかなりチャレンジングだったと言えるだろう。ここでは『超時空要塞マクロス』や『機動戦士ガンダム』といったロボットアニメの空中戦を手がけてきたアニメーター・板野一郎による高速戦闘アクション(通称:板野サーカス)が抜群に効いていて、複数の戦闘機が新宿上空でウルトラマンと共闘するシーンには、思わず目頭が熱くなる(ちなみに板野は、庵野が師と仰ぐ人物でもある ※3)。

 さらに、自衛隊の全面協力で撮影された『ULTRAMAN』の冒頭シーン、特にそこで流れるサウンドトラック「真木のテーマ」(作曲:小澤正澄)は、あの有名な「Top Gun Anthem」(ハロルド・ファルターメイヤー&スティーヴ・スティーヴンス)を明らかにオマージュしており、一度でも『トップガン』を観たことがある方なら「おっ!」と声を上げたくなるはずだ。松本孝弘(B’z)が手がけた本作のメインテーマ「Theme From Ultraman」も映像の臨場感を高めており、どこをとっても“カッコいい”が詰まった作品なのである。

 膨大な映像アーカイブにアクセスでき、個々人が自由に情報を発信できる昨今、いつどのような過去作にスポットライトが当たるのか、全く予測できない。こうして2022年に『ULTRAMAN』が注目されたのはもはや奇跡であるが、逆にいうと『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』のヒットにより、“巨大特撮”が再び注目されるタームがやってきたとも言えるだろう。

 2004年の『ゴジラ FINAL WARS』から2016年の『シン・ゴジラ』に至るまで、実に12年間も国産ゴジラ作品は休眠期間に入ってしまったし、平成のウルトラマンシリーズも前述した『ティガ』『ダイナ』『ガイア』といった1990年代作品のインパクトが強く、2000年代に入ってからはどちらかというと『仮面ライダー』シリーズが大きく躍進している印象だ。劇場作品の興行収入も、ウルトラマン作品に比べると、仮面ライダー作品の方がはるかに数字が大きい。もちろん公開規模の違いもあるため単純比較はできないが、『仮面ライダークウガ』以降のシリアスな仮面ライダー作品が高い支持を集めてきたことを思うと、21世紀は巨大特撮よりも、等身大の特撮作品に関心が集まっていったのではないだろうか。そもそも『ウルトラマン』の始まりは、1960年代の高度経済成長や技術進歩を背景に、人々の関心が宇宙に向いていたことと大きく関係しているのだから、時代と共に求められるヒーローの“スケール”が変化するのは至極当然なのである。

 『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(1999年)や『ウルトラマンティガ THE FINAL ODYSSEY』(2000年)など、20世紀末を象徴していた「滅亡と救済」としての巨大特撮は一旦の落ち着きを迎え、急速なインターネットの普及と共に、より社会派な仮面ライダーが支持を集めたのは、今思えば当然だったのかもしれない。そして、追い打ちをかけるように起きた9.11により、巨大なビルの倒壊があまりにも直視できないリアルな出来事になり過ぎてしまったことは、「ULTRA N PROJECT」に至る流れでも述べた通りだ。

 そんな変動激しい時代のはざまに生まれた映画『ULTRAMAN』は、内容の素晴らしさに反して、当時の世相的にとても受け取りづらい作品になってしまったのかもしれない。しかし、ウルトラマンを100%空想の産物だと再定義して『シン・ウルトラマン』が作り出された2022年、再びフラットな視点で『ULTRAMAN』と向き合える瞬間が訪れたのではないだろうか。あるいはコロナ禍という得体の知れない恐怖が世界を覆ったここ2年半を経て、未知なる敵に立ち向かう巨大ヒーローの存在が恋しくなったーーそんな事情ももしかしたら関係しているのかもしれない。

 長々と述べてきたが、『シン・ウルトラマン』と『トップガン マーヴェリック』、どちらかだけでも興奮できたのなら、ぜひ『ULTRAMAN』を観てみてほしい。きっと楽しめるはずだ。そしてこの盛り上がりを機に、動画配信サービスの拡大や劇場での再上映イベントが開催されたら、こんなにも嬉しいことはない。

参考
※1. 『ULTRAMAN』DVD付属のブックレット、または『ULTRAMAN』パンフレット
※2. 『ULTRAMAN』パンフレット
※3. https://news.mynavi.jp/article/20141105-annohideaki/

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