『やんごとなき一族』での昼ドラ的怪演が話題 顔芸から替え歌まで披露する松本若菜に夢中

 土屋太鳳演じる庶民のヒロインが上流階級の良家に嫁ぎ、改革を起こしていく『やんごとなき一族』(フジテレビ系)も最終回が迫ってきた。近年稀に見る、常軌を逸した嫌がらせ描写やお家騒動から目が離せない本作だが、その中毒性の正体は深山美保子を演じる松本若菜の存在である。

 第1話から主人公の佐都(土屋太鳳)をサウナに閉じ込めるという、一歩間違えたら(間違えなくても)人を殺しかねない行為を平気でしてくる強烈なキャラ、美保子。深山家の長男・明人(尾上松也)に嫁いだ彼女は、佐都の義理の姉として彼女を徹底的にいじめぬく。最初は怖そうに見えた彼女だが、第2話でサウナから自力で脱出した彼女に対して、よくわからないテンションでシラをきる姿から、想像以上に癖の強い人物であることが早々から表明されていた。それは話数を追うごとにエスカレートしていき、最近では“松本劇場”たるものさえ公式的に生まれてしまっているのだ。そんな彼女を彷彿とさせるのは、2004年に放送された『牡丹と薔薇』(東海テレビ・フジテレビ系)の妹、香世(小沢真珠)である。

 『牡丹と薔薇』といえば、姉妹の愛憎劇を描いた、もはや伝説の位置付けにある昼ドラ。香世は姉に向かって「牡丹じゃなくてブタよ!」と言ったり、浮気した夫に「狂牛病が心配だからよく焼いたのよ」と牛革財布にグレイビーソースをかけた「財布ステーキ」を生み出したりと、強烈な“意地悪な妹”キャラクターの代表格とも言える存在だ。基本、ホラー映画もゴア描写をやりすぎるとそれが非日常的、つまり偽物と感じて「怖い」とか「痛い」という感覚よりも「笑える」「すごい、もっと見たい」的な気持ちになってくるわけだが、香世や美保子のエキセントリックさはそれと同じ効力を持っている。

 このドラマの見どころは、最初の顔合わせで全員から馬鹿にされた佐都が毎話ごとに「やんごとなき深山家」のメンバーそれぞれの抱える悩みを知り、それを解決に導くことで和解していく“攻略性”だ。しかし、その中で冷静に考えれば、美保子は徹底して佐都にひどいことをし続けている。実は最恐のメンヘラキャラであり、健太(松下洸平)と無理心中を実行した泉(佐々木希)でさえ、佐都と和解しているのだ。健太が生きていたから良かったが、生死を問わずにそんな彼女とその後普通に会って話ができている時点で、佐都も間違いなく「やんごとなき一族」の一員であるとは思うが、そんな彼女がまだ攻略できていないのが、当主を除いて長男夫婦なのである。もはや、美保子はドラマの“ラスボス”といっても過言ではないだろう。一度はその素性が露呈し、深山家を追放された美保子だが、それからも何事もなかったかのように平気で家の敷居をまたいだり、佐都を追い詰める策を練り直したりと、エネルギッシュ極まりない。そしてついには明人との子供を妊娠したという嘘までついたので、もう佐都と健太のストーリーよりも、美保子の動向や、演じる松本の顔芸や替え歌が楽しみになっている節さえある。

 松本の顔芸は、夫婦役を演じる尾上にも共通するものだ。尾上こそ、『まったり!赤胴鈴之助』(テレビ大阪)での熱演をはじめ、何かと「顔芸がすごい」と言われていた俳優であり、この夫婦揃って“顔がうるさい”のが、メタ的な面白さを際立たせている。オーバーな顔芸をする悪役の怪演っぷりがドラマ人気を加速させることは、それこそ尾上も出演していた『半沢直樹』(TBS系)以降お馴染みになったかもしれないが、それでも飽きさせない魅力を放つのは松本の手腕あってこそのものだろう。

関連記事