『悪女(わる)』が映す日本社会30年間の停滞 令和版の問題は平成版よりも深刻に
『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』が最終回を迎える。水曜ドラマ(日本テレビ系)で放送されている本作は、株式会社オウミに入社した田中麻理鈴(今田美桜)が、憧れのT・Oさん(向井理)と出会うために、先輩の峰岸雪(江口のりこ)から指南を受けて「出世」を目指す姿を描いたドラマだ。
原作は1988年から1997年にかけて深見じゅんが連載していた漫画『悪女(わる)』(講談社)。1992年に石田ひかり主演で一度ドラマ化されている。2022年版『悪女(わる)』と1992年版『悪女(わる)』を見比べると、ファッションやテクノロジーの変化は大きいが、会社における男女格差の問題は今も変わらないと感じた。だからこそ作り手もリメイクしようと考えたのだろう。
1992年版『悪女(わる)』はトレンディドラマブームの余波で作られた作品だったが、当時の社会の空気が強く反映されていた。バブルが崩壊し、少しずつ平成不況の気配が漂っていたが、まだ日本が豊かだった時代。女性の社会進出は進んでいたものの、日本の企業の多くはいまだ男社会で、年功序列・終身雇用という昭和のサラリーマン社会は続いていた。男は定年まで働き、女の仕事はお茶組みとコピー取りといった雑用ばかりで、入社して2~3年後には結婚相手を見つけて寿退社することが当たり前とされていた時代。「仕事のために結婚を諦めるか? 結婚を選び仕事を辞めるか?」という苦しい二択を女性は迫られており、結婚、出産後に再び働こうとしても再就職は難しかった。そして会社には女性の出世を阻む「ガラスの天井」が存在した。
そんな理不尽な会社組織を、田中がゲームをクリアするように次々と「出世」していく『悪女(わる)』の物語は、当時、とても新鮮だった。田中の動機がT・Oさん(Xiu Jian)への「恋」というのも素晴らしく、「仕事と結婚は二択ではなく、両立できない状況はおかしいのではないか?」という問いかけとなっていた。だからこそ、峰岸が子育て中の女性の再就職を後押しする託児所のある派遣会社「レディスシンクタンク」を立ち上げる姿が、クライマックスでは肯定的に描かれたのだろう。
この結末は、正社員と派遣社員という「新たな格差」が会社の中で生まれている現在の視点から振り返ると複雑な気持ちになるが、目指した方向性は間違っていなかったと思う。