『パンドラの果実』不可解な事件の悲しい動機 回を追うごとに渦巻く黒い気配
「119センチです。あの子の成長はそこで終わった」。君塚は、初めて一人の「君塚桃子」として、母親としての感情をあらわにした。生まれたときの体重も、やんちゃだった子ども時代も、初めて話した「パパ」という言葉も、君塚はすべて覚えている。それなのに来栖の資料からは、娘の存在がまるっきり消去されていた。まるで初めから、この世に存在しなかったかのように。さらに、冷凍保存された遺体にまで手を出そうとした。それが殺害の動機であり、君塚は後悔していないと言った。
「娘さんが、大好きだと思えるあなたでいてください」。「生き返ったときにどう思うか」を考えてみてほしいという小比類巻の言葉は、たとえ迷う日があろうとも「いつか」を信じている者だからこそのものだった。小比類巻自身の戒めであり、生きる活力としている言葉なのかもしれない。思えば榊原との会食の帰り際、君塚は「私のナノマシンは、娘を生き返らせることができると思いますか?」と、小比類巻に尋ねるように、あるいは自問自答のように呟いていた。ナノマシンが娘を無事に蘇生させる日を心の支えにしながらも、そもそもが非現実的な研究だ。夫にも理解されず、あきらめと希望の間を揺らぎながら、君塚はここまで生きて来たのだろう。
最後に長谷部(ユースケ・サンタマリア)は、冷凍保存についてネガティブな言葉を述べたことを小比類巻に謝罪した。けれど、あの場所に居合わせたのが長谷部だったからこそ、小比類巻は迷いなく真実を明かせたのだと思う。冒頭では、「亡くなった人にまた会いたいっていう人はいるんじゃない」と、小比類巻を気遣うような最上の言葉も印象的だった。小比類巻の秘密を共有した科学犯罪対策室は次週、亜美と瓜二つの遺体に対峙する。黒い気配が、回を追うごとにどんどんと渦巻いているような気がする。
■放送・配信情報
日本テレビ×Hulu共同製作 土曜ドラマ『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』
Season1:日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜放送
Season2:Huluにて、6月25日(土)Season1最終話放送後から独占配信スタート(全6話)
出演:ディーン・フジオカ、岸井ゆきの、佐藤隆太、西村和彦、本仮屋ユイカ、シャラ ラジマ、安藤政信、板尾創路、石野真子、ユースケ・サンタマリア
原作:中村啓『SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦』(光文社文庫)
脚本:福田哲平、関久代、土城温美
監督:羽住英一郎
主題歌:DEAN FUJIOKA「Apple」(A-Sketch)
チーフプロデューサー:三上絵里子、茶ノ前香
プロデューサー:能勢荘志、尾上貴洋、古屋厚
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