『オビ=ワン・ケノービ』ユアン・マクレガー、これまでの幅広いジャンルでの活躍を振り返る
深みを増して踏み出した新たなステージ
さらにマクレガーの活躍はつづく。2010年のロマン・ポランスキー監督作品『ゴーストライター』で主演を務め、ヨーロッパ映画賞男優賞を受賞したのだ。これは、イギリス人俳優としては、ベン・キングズレーの『セクシー・ビースト』以来9年ぶりの受賞だった。本作は、元英国首相アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の自叙伝の執筆を依頼されたゴーストライターが、前任者の不審な死を追っていくうち、驚愕の真実が明らかになるというストーリーだ。マクレガー演じる名もない男は、自らを“ゴースト”と自嘲する。陰鬱な雰囲気のなか、好奇心を抑えきれず危険に踏み込んでいってしまう主人公の姿は、素朴で善良でもある。まさにマクレガーの持ち味が活かされた役と言っていいだろう。この作品以降、彼は自身の持ち味を活かしつつ、人間的に成長した役柄を演じるようになっていく。
マイク・ミルズ監督の『人生はビギナーズ』(2010年)でマクレガーは、75歳にしてゲイであることをカミングアウトした父ハル(クリストファー・プラマー)の生き方に背中を押され、自らの人生を選び取っていくオリヴァーを演じた。控えめな性格の彼は、38歳という充分に「大人」といえる歳であるにも関わらず、自分の人生に自信を持てないでいた。しかし物語のなかで彼は成長し、精神的に成熟した「大人」になっていく。これまで純粋さを持ち味に「青年」を演じてきたマクレガーだが、それを持ち続けたまま「大人」を演じるようになった。これは、スマトラ沖地震で離れ離れになった家族の実話をもとにした『インポッシブル』(2012年)での父親役や、成長したクリストファー・ロビンを演じた『プーと大人になった僕』(2018年)へとつづいていく。
しかし2017年、マクレガーは“純粋さ”、“善良さ”というイメージを打ち破る役を演じることになる。ドラマ『FARGO/ファーゴ』シーズン3で、彼はエミットとレイのスタッシー兄弟を一人二役で演じた。1996年のコーエン兄弟監督による同名映画をモチーフにしたこのテレビシリーズは、もとの映画と同様にブラックユーモアに溢れるサスペンスだ。本作でマクレガー演じるスタッシー兄弟は、ふとしたきっかけで殺人事件を起こし、次々と奇妙な事態に巻き込まれていく。裕福なエミットと貧乏なレイは、髪型以外に特殊なメイクを施しているわけではないが、同じ俳優が演じているとは思えないほど見た目が違う。発声もそれぞれの役で変えている。マクレガーはこの役で、ゴールデングローブ賞男優賞を受賞した。彼はさらに幅広いイメージの役柄を演じられることを証明したと言っていいだろう。
メアリー・エリザベス・ウィンステッドとのなれそめと結婚
さて、冒頭でも触れたが、マクレガーは2022年4月、ドラマ『FARGO/ファーゴで共演したウィンステッドと結婚した。彼女は同作で、マクレガーが演じたレイ・スタッシーの婚約者ニッキー役を務めた。2人の交際が発覚した2017年当時、マクレガーは別居はしていたものの、まだ前妻のマヴラキスと婚姻関係にあったため彼の娘が怒りを顕にし、ウィンステッドに対する世間の評判はあまりいいものではなかった。しかし2020年にマヴラキスとの離婚が成立。2021年にはウィンステッドとの間に息子も誕生し、晴れて夫婦となったのだ。彼は前妻との間に4人の娘がいるが(うち2人は養女)、彼女たちも今では小さな異母弟をかわいがっているらしい。
デビューからまもなく、尖った役でスターダムを駆け上がったマクレガーだが、実は彼の持ち味は、素朴で実直な雰囲気にある。大作からインディペンデント映画まで幅広い作品に出演してきた彼は、その魅力を活かしつつ俳優として活躍の幅を広げてきた。その人気は衰えず、2022年以降も5つの出演作が待機している。『スター・ウォーズ』という巨大フランチャイズでも彼の持ち味は活かされ、オビ=ワン・ケノービは偉大なジェダイ・マスターでありながら、人間味あふれるキャラクターになった。そんな彼がドラマシリーズで帰ってくるのを、心待ちにしている人も多いだろう。彼の隠遁生活が描かれるドラマ『オビ=ワン・ケノービ』をぜひ楽しみたい。
参考
https://www.closerweekly.com/posts/ewan-mcgregors-kids-get-to-know-actors-5-children/
https://www.imdb.com/name/nm0000191/?ref_=fn_al_nm_1