『ショーシャンクの空に』はいかにして“名作”となったのか 今こそ沁みるラストシーン

『ショーシャンク』はいかに名作となったのか

 ティム・ロビンスのもうひとつの大きな功績は、ロジャー・ディーキンスを本作の撮影監督に推薦したことだ。『未来は今』で彼の仕事に惚れ込んだロビンスは、監督としては経験不足のダラボンを支えるパートナーとしてディーキンスを強く推した。その後、ロビンスは監督作『デッドマン・ウォーキング』(1995年)でもディーキンスとタッグを組んでいる。

 『ショーシャンクの空に』はディーキンスのベストワークのひとつでもある。ドラマティックな陰影のコントロールと、自然光を基調とした渋めのニュアンスが無理なく合致していて、すべてのカットの質感がリアルで美しい。ダラボンもまた映像面にも重きを置く作り手であることは『エルム街の悪夢3』や『ブロブ』の視覚的アイデア満載なシナリオからも、本作のルックからもうかがえる。演出とライティングの完璧な結合をひときわ感じるのは、映画の後半、巨大な壁を背にして座るアンディとレッドの会話シーンだ。日陰の暗く冷たい温度感は、アンディの不穏な未来と、明るい陽光のもとに踏み出す勇気も同時に映し出している。

 ダラボンは本作で明らかに「高いレベルの映画表現」を目指した。もちろん作家それぞれに目指す頂点は異なるが、この映画の場合は「普遍性」だったのだと思う。だから決して映画マニアの恩情にすがったり、キング作品のファンだけを満足させるような作品にはしなかった。それもまた当時のダラボンには身の丈以上の選択だったはずだ。

 映画だけに付け加えられた部分で特に印象的なのは、アンディが勝手に「フィガロの結婚」のレコードをかけ、それをスピーカーで刑務所中に鳴り響かせるというくだりだ。罰として独房に放り込まれたアンディは、めげずに仲間たちにこう語る。「心のなかにあるものは誰にも決して奪えない。それが音楽の素晴らしさだ。そう思わないか?」。続く会話のなかで「音楽」は「希望」に言い換えられ、セリフでわかりやすく本作の主題を伝えている。

 本やポスター、ミニハンマーや瓶ビールといった小さな品物のやりとりをする男たちのドラマは、つまるところ形のないもの……人が心に抱く希望、あるいは自由と呼ばれるものについて考えさせる物語になっていく。終盤で刑務所長が叫ぶ「風のなかの屁のように消えたってのか!」というセリフはギャグでもあり、作品の主題のリフレインでもあるわけだ。

 言うまでもなく、これは刑務所のなかだけに限った話ではない。会社でも、家庭でも、学校でも、義務感やプレッシャーにがんじがらめになって、自分が「囚われている」と感じた経験は誰にもあるだろう。そんなとき、自分の心は本来自由なのだということ、希望を抱くことに制限などないことを思い出すのは、正しいし、健康にもいい。それはいつか本当に「壁を乗り越える」アクションの原動力にもなるはずだ。そう思わせる普遍性が、本作にはある。

 劇中では“施設慣れ”という言葉が出てくる。自分を閉じ込めている牢獄を、最初は憎み、次第に慣れ、最終的には頼るようになるという長期刑囚の心理だ。レッドはそれを恐るべきものとして語り、自身もそれを体感する。これもまた普遍的な心理である。

 全人類がコロナ禍という刑務所並みの不自由と閉塞感を体験したいま、「元の日常が戻ること」に恐怖を感じている人も少なくないかもしれない。本作のラストシーンは、2022年の現在こそ余計に沁みるのではないだろうか。

■放送情報
『ショーシャンクの空に』
日本テレビ系にて、5月20日(金)21:00〜23:24放送
監督・脚本:フランク・ダラボン
原作:スティーヴン・キング『刑務所のリタ・ヘイワース』
製作:ニキ・マーヴィン
音楽:トーマス・ニューマン
出演:ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン、ボブ・ガントン、クランシー・ブラウン
1994年/アメリカ/カラー/142分/DCP/G
(c)1994 Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.
公式サイト:https://kinro.ntv.co.jp/

■公開情報
『ショーシャンクの空に』4Kデジタルリマスター版
(c)1994 Castle Rock Entertainment. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.culture-ville.jp/shawshank4k

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