『流浪の月』広瀬すずと松坂桃李が役作りで繋いだ15年 人間臭さが詰まった横浜流星も

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、GWにロケ地の長野・松本を訪れた大和田が『流浪の月』をプッシュします。

『流浪の月』

 2020年の年間ベストセラー1位(日販単行本フィクション部門、トーハン単行本文芸書部門)に輝いた、凪良ゆうの同名小説を映画化した本作。10歳の時に、誘拐事件の“被害女児”となり、広く世間に名前を知られることになった女性・家内更紗を広瀬すず、その事件の“加害者”とされた当時19歳の青年・佐伯文を松坂桃李が演じる。15年後、偶然の再会を遂げたふたり。それぞれの隣には現在の恋人、亮(横浜流星)と谷(多部未華子)がいた。

 原作未読の筆者が「女児誘拐事件」という単語で想像したのは、劇中で更紗と文の関係を不審に見る周辺の人たちと同じ考えだった。「洗脳されてるんじゃないか」「本当に心配してるんだよ」周りの人は更紗にそう言ってくる。しかし、更紗は言う。「わたし、可哀想な人じゃないよ」。そして文は言う。「更紗は更紗だけのものだ」。

 本編の冒頭、10歳の更紗(白鳥玉季)と文のまなざしを一目みて、彼らの仲は「女児誘拐事件」の言葉から想像したものと違うんだとわかる。演じる白鳥玉季と松坂、そして15年後の広瀬と松坂の関係性が、演者が代わり空白の15年の時間というハンデがあっても、繋がって続いて見えてくる。

 広瀬は、映画では描かれない文と再会するまでの15年をつかむため、文と出会った公園や文のアパート、さらには事件後預けられた児童養護施設などを見学して役作りに生かしていったという。松坂も、カフェを営む文を思いながらひたすらコーヒーを淹れる練習や、幼い更紗と過ごした撮影用のアパートの部屋で寝泊まりをしたり、離れ離れの15年を想像して日記を書いたそう。「俳優が役作りのためにこうやりたい、考えたいと言えば、すべて実践させてくれた」と松坂は李相日組での映画作りについて話す。目線、ふとした表情の緩みからでさえ、その場面場面で、更紗と文に流れる空気が感じられた気がした。

関連記事