志尊淳と荒木哲郎監督が語り合う、理想の仕事観 「“楽しい”の先にクリエイティブがある」

 『進撃の巨人』や『甲鉄城のカバネリ』で知られる荒木哲郎監督の長編アニメ映画『バブル』が、5月13日から全国の映画館で公開される。

 本作は、荒木監督のもとに、キャラクターデザイン原案の小畑健、脚本の虚淵玄など一流のクリエイターが集まり制作された。世界に謎の泡が降り注ぎ、重力の壊れた東京を舞台に、パルクールで競う若者たちの活躍と、泡から生まれた少女ウタと主人公の少年ヒビキの淡い恋模様を描いている。荒木監督の代名詞ともいえる、ダイナミックかつ爽快感溢れるアクションが満載の作品に仕上がっている。

 本作の主人公ヒビキ役に抜擢されたのは、俳優の志尊淳。自ら志尊を指名したという荒木監督と、初の日本アニメの声優挑戦となった志尊に話を聞いた。(杉本穂高)

荒木「志尊さんは冷たい台詞の中に優しさを込められる」

――荒木監督はどうして主人公のヒビキ役に志尊さんを選んだのですか?

荒木哲郎(以下、荒木):ヒビキは物語の最初は心を閉ざしていて、そこからだんだんと仲間たちに心を開いていきます。ですので、ぶっきらぼうな奴として登場するんですが、その時も嫌な奴だと思われては駄目なんです。志尊さんは冷たい台詞を言っても、その中に誠実さや人間的な優しさを込められるし、台詞の向こう側にあるものを伝えることができると思ったんです。いわゆる職業声優さんではない方と仕事するのは私も初めてなので、不安はありましたが、いざお会いして声を聞いたら何の心配も要らないと思いました。むしろ身体を使って芝居をやられている方の説得力みたいなものがあって、声から人生を感じられる気がしました。

――志尊さんは本作のオファーを受けた時、どんなことを感じましたか?

志尊淳(以下、志尊):お話をいただいた時点で、まず監督とプロデューサーの川村元気さんにお会いして、「本当に僕でいいんですか?」と素直に聞いたんです。僕は声の芝居の経験も多少ありますが、生半可な気持ちじゃできないものですし、簡単に「やります」とは言えなかったんです。でも、荒木監督がすごく熱く「志尊くんがいいんだ」と語ってくださったので、この仕事をやっている以上、求められるのは一番嬉しいことですから、できる限り期待に応えようと決意しました。

――志尊さんが声のお芝居に挑戦するのは、『バンブルビー』の吹き替え、ピクサーの『2分の1の魔法』日本語版に続いて3度目となります。日本のアニメ作品は初挑戦となりますが、外国映画やピクサー作品のお芝居との違いはありましたか?

志尊:全く違う体験でした。外国映画の吹き替えは役者さんの雰囲気に合わせていく必要がありますし、『2分の1の魔法』の時も英語版のトム・ホランドさんの芝居に合わせていく形でした。でも、『バブル』はオリジナルの作品ですから元になる基盤がないので、完全に別物でしたね。これまでの声の芝居はテクニカルな要求が多かったんですが、荒木監督の演出が常にキャラクターの状況を演じさせるという方向だったので、とても楽しかったです。例えば、「悲しいから悲しい声を出して」とか、「もっと声を大きく」のように形容詞で説明するのではなく、「今このキャラクターはこういう感情になっているので、その上で演じてみてください」と指示されるんです。役者は誰もが自分なりに役を掘り下げていますから、こういうスタイルが一番やりやすいですし、荒木監督は僕が迷っている部分があれば納得できるまで説明してくれて、すごく寄り添ってくださっているなと感じました。

――荒木監督は、職業声優の方たちと仕事する時も同様のやり方なのですか?

荒木:そうですね。音響監督の三間雅文さんと僕の共通の認識は、声を出す前に心を作ることです。キャラクターがどういう気持ちでいるのかを演者さんに伝えて、その気持ちを共有する。その結果、演者さんから出てくる声は嘘じゃないはずなので、それを受け入れるというやり方をしています。その点はいつもと変わりませんが、今回、志尊さんの場合は、身体が伴うとより気持ちが入りやすいだろうと我々は考えて、できるだけ作中のキャラクターと同じ動作やポーズをしてもらいながら演じてもらいました。

――実際にそのやり方は、志尊さんとしてはいかがでしたか?

志尊:すごくやりやすかったです。やはり、身体に負荷がかかっていない状態で声だけで表現するのはかなり高いテクニックが必要ですけど、僕はそこまで器用ではないですから。監督がおっしゃったように、キャラクターと同じ負荷をかけた状態で出てくる言葉は本当ですから、劇中のシチュエーションに近づけてくれるのはありがたかったです。

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