『17才の帝国』はまるで映画 神尾楓珠、星野源ら適材適所の役者たちの演技は必見
土曜ドラマ『17才の帝国』(NHK総合)が、5月7日よりスタートした。これまでの通例を打ち破った、破格のスケールのドラマが始まった──というのが第1話を観終えての感想だ。
時代は202X年、近未来。日本の地方都市に立ち上がった実験都市「UA(ウーア)」を舞台に、17才の総理・真木亜蘭(神尾楓珠)が、最先端AI「ソロン」を駆使して理想の政治の実現を目指す、青春SFエンターテインメントだ。真木のほかに、ソロンが閣僚に選んだのは、総理補佐官の茶川サチ(山田杏奈)をはじめとした全員25才以下の優れた若者たち。真木は閣僚会議を街の住民に向けてライブ配信(監視役)し、予算削減の目的からいきなり市議会の廃止を決行する。ウェアラブルデバイスから誰もがチャット感覚で気軽に話し合いに参加でき、視聴者の数万人全員がソロンを通じて議員になれるという考え方だ。
一見すると住民の“幸福”を願った改革案とも言えそうだが、それは現在の市議会議員たちに向けた解雇通告でもある。弱い立場のはずの市民をマジョリティーとして味方につけた、マイノリティーの議員を犠牲にする一方的な行為。「改革はもう始まっています」と顔色一つ変えず、理想の政治に近づけていく真木には底知れない恐ろしさを感じさせる。そんな冷静沈着ながら、独裁政治の危険性を孕む真木をプロジェクト・ウーアのマネージャーという立場から見守るのが、平清志(星野源)。現・鷲田内閣の官房副長官を務めるエリート政治家で、次世代の総理候補。真木の首相としての立ち回りを「暴走」「理想に満ちた就任演説」と揶揄しつつ、鷲田(柄本明)との板挟みの中で葛藤していく。
『17才の帝国』はどこか特撮の匂いを纏った、アニメ的作品だ。その大部分の要素を担っているのが、脚本を手掛ける吉田玲子。『けいおん!』『ガールズ&パンツァー』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』、今年に入ってからは『平家物語』など、長きにわたり数多くの名作アニメを担当してきた吉田によるオリジナル作品である。真木とサチの「青春」を描きながら、そこに「政治」「SF」という物語の核をぶつけている。ソロンの声に緒方恵美を起用している点も、アニメ的要素を強めているポイントだ。そして、制作統括には大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合)を手がけた訓覇圭、プロデューサーには『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)の佐野亜裕美という布陣。よるドラ『きれいのくに』(NHK総合)を彷彿とさせる、どこか不気味な雰囲気の正体は演出を担当する西村武五郎の手腕なのかもしれない。