『ベター・コール・ソウル』から『ブレイキング・バッド』に連なる重要なミッシングリンク

※本稿は『ベター・コール・ソウル』第3話、第4話のネタバレを含みます。

「誰もが出直せるわけじゃない」

 『ベター・コール・ソウル』シーズン6の第3話を観終えて、筆者の脳裏にはこの言葉がよぎった。『エルカミーノ:ブレイキング・バッド THE MOVIE』で、人消し屋エド(ロバート・フォスター)がジェシー(アーロン・ポール)に向けた言葉だ。そして『ベター・コール・ソウル』のナチョ(マイケル・マンド)がアルバカーキ・サーガにおいてジェシーと対の存在であることに、ここでようやく気付かされた。

 ナチョはやり直せなかった男である。サラマンカファミリーによる包囲網は狭まり、精も根も尽き果てた。満身創痍の彼に食事と衣服を与えたのは、荒野の整備上で働く名もない男だ。この男の善意もまた、ナチョの背中を押したのかも知れない。ナチョは父親へ電話をかける。父親は言った。「何をすべきかわかるな? 警察へ行け」。父の声を聞けた束の間の安堵と、取り返しのつかない彼岸に立たされた哀しみを見せるマイケル・マンドの名演だ。

 次にナチョが電話をかけたのはマイクだった。父親を守るため自らガス(ジャンカルロ・エスポジート)のもとに出向き、ラロ殺害の下手人としてサラマンカファミリーの前で処刑される道を選ぶのだ。“自首”したナチョにメシを食わせ、最期の時に立ち会うマイクはさながら死刑囚官房の看守であり、そして介錯人のようだ。マイクは警察内部の汚職によって命を落とした息子の影をナチョに見出しており、そして『ブレイキング・バッド』ではウォルターとガスという2つの巨悪に翻弄されるジェシーにナチョを見ていたのである。彼のジェシーに対する信義の由来はここにあったのだ。前回(シーズン6第1話、第2話)のような明確な引用とは異なり、長大なサーガであるからこそ、僕たちはこの行間を埋めるナラティブを見出すことができるのだろう。

 果たしてナチョは怒りの言葉を吐き、自ら命を断つ。ここで視聴者は第3話冒頭、砂漠に咲く青い花の意味を知ることになる。ナチョは荒野の仇花だったのか? いや、この数年後、あの場にいた誰もが命を落としていることを考えれば、ナチョの犠牲もムダではなかったのだと思いたい。

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