何のために生きてるんだろう、どうせ死ぬのに 最新ホラー映画『N号棟』が問う死生観

 本作を観て思い出したのは『完全自殺マニュアル』(太田出版)という書籍である。様々な自殺の方法が客観的に書かれた本であり、1993年に発行され、10代から20代の支持を受けてブームを巻き起こし、100万部以上を売上げるミリオンセラーとなった。この本は自殺のススメではなく、自殺を念頭において生きるための本だと著者は語る。死を意識するからこそ、前向きに生きることができるというものだ。

 主人公の史織は、死ぬのが怖くて眠れないというが、性格は活発で勇敢だ。「怖いもの見たさ」とは言ったものだが、何かに突き動かされているような姿は、死を恐れないようにも見える反面、死に突き動かされているようにも見える。史織役の萩原みのりも、公式サイトのコメントで「死を間近に感じることで生をより実感する」(※)と生死について語っている。そういう点では『おくりびと』に次ぐ、死ぬこと、そして生きることを考えさせられる作品なのではないだろうか。

 死を恐れるほど生きれるのか、生きることを渇望するから死を恐れるのか。ぜひ映画『N号棟』に足を踏み入れて、あなたの“死生観”を確かめてみてほしい。

参照

※ https://n-goto.com

■公開情報
『N号棟』
公開中
監督・脚本:後藤庸介
出演:萩原みのり、山谷花純、倉悠貴、岡部たかし、諏訪太朗、赤間麻里子、筒井真理子
音楽:Akiyoshi Yasuda
主題歌:DUSTCELL「INSIDE」(KAMITSUBAKI RECORD)
制作:MinyMixCrieat部
製作:「N号棟」製作委員会
配給:SDP
2021年/103分/カラー/シネスコ/5.1ch
(c)「N号棟」製作委員会
公式サイト:https://n-goto.com

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