大泉洋を中心に“人間の怖さ”を体現する役者たち 『鎌倉殿の13人』に釘付けになる理由

 現在、放送中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。このコラムでは、大泉洋演じる源頼朝を中心に振り返ってみたい。

 頼朝の登場は第1話から。伊豆の豪族、伊東祐親(浅野和之)が家を留守にしている間にその娘の八重(新垣結衣)と頼朝が恋仲になり子供を産んでいたことで祐親の怒りを買い、鎌倉にいる一族の北条家の三郎(片岡愛之助)の目論見により隠れているという場面だ。

 北条家の娘、政子(小池栄子)は頼朝のところに食事を運ぶが、頼朝は口数も少なく、独特の緊張感を醸し出す。

 政子は以前から頼朝を見かけたことがあり、ほのかに好意を感じていたようだ。その日から頼朝への気持ちを隠さないのだが、頼朝は八重の存在もあり……と女性にモテる人物。『鎌倉殿の13人』が始まったときには、さまざまな女性を虜にする役を大泉洋が演じることに、驚く感想も見受けられたが、見ていくうちに、そんな驚きも消えていく。

 それよりも、今も頼朝のことを思う八重に対して、つれない態度をとったり、またその後も、心配しながら彼の帰りを待つ政子の気持ちをよそに、江口のりこ演じる亀と逢瀬を重ねたりする場面があり、その後、政子の元に戻って、「待っておったぞ政子」と歩み寄り、人々の見ている前で政子を抱きしめる。頼朝の「女好き」な描写は、その後も後をたたない。

 そこには頼朝の生い立ちも関係しているともとれるだろう。頼朝は父が平家の乱で敗れたために、幼少期に伊豆に流されて育ち、孤独を抱えている(と本人がそう見せる場面が多々ある)。八重との間に子供を儲けたことも、政子の心を掴んだことも、彼の生存にも深く関わってもいるのではないか。

 父を負かした平家と、伊東祐親への強い憤りのある頼朝は、同じく平家を倒したいと考える北条の「家」と政子が必要であった。しかし、かといって、彼を棟梁として北条家や三浦家とともに戦いに挑むも、棟梁の器があるようにも思えず、戦闘に加わるわけでもない。優柔不断で、兵士を統率する力を持っているわけではないし、ときには「わしは兵などあげん」と駄々をこねる頼朝を、義時(小栗旬)らが、なんとか鼓舞させたりしている姿に苦労が滲む。

 言ってみれば、頼朝はつかみどころがなく、どこか空恐ろしい部分がある。空恐ろしさを最も感じさせたのは、八重との間にできた子供の千鶴丸が、祖父の祐親の命により命を落としたと知っても、「それが定めであった」と平然と言えるようなところであった。また一度は殺すことなく娘婿の元で過ごすことにさせた憎き伊東祐親のことも、頼朝は何事もなかったかのように殺してしまう。

 もちろん、自分のされた仕打ちを考えれば、祐親を殺すように命じることが(戦乱の世の中であれば)矛盾しているとは言えないのだが、こうしたシーンでも、祐親と八重が父と子の情を少し取り戻したように見えた瞬間に、あえて頼朝の空恐ろしさ、何かつかみどころのない人間の怖さを際立たせる脚本が見事である。

 同時に、頼朝は、人たらしでもあり、また何度も命を落としそうになっても生き延びられる強運の持ち主である。平家と伊東への強い憤りを持つ立場としての象徴でもあるために、周囲のものも、頼朝を神輿に乗せて、盛り立てないわけにはいかないのだ。単に戦をして勝っていくというだけでなく、源氏の内部の苦労が、ときにコミカルに描かれるのもこのドラマの面白さの一つだろう。

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