『ドクター・ストレンジMoM』で顕在化するMCUドラマの重要性 繋がりと戦略を考える

ディズニー/マーベルの狙いは?

 先に紹介したファイギの「ほかの作品を観ていなくても楽しめる」というのは、これまでMCUがどのように人気を獲得してきたかを考えると、矛盾する発言のようにも思える。個別に活躍していたヒーローたちが集結するお祭り感は、そこに至るまでにそれぞれが辿ってきた道のりを知っているからこそ、味わい深いものがあった。しかしフェーズ3までに広がりすぎたユニバースは、「一見さんお断り」の雰囲気も否めなくなってしまったのだ。ディズニー/マーベルは、フェーズ4に入り初代アベンジャーズがほぼ引退状態になった今こそ、新規のファンを獲得するチャンスと見ているのだろう。

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(c)Marvel Studios 2022

 世界的に人気・知名度が高いスパイダーマンの映画でドクター・ストレンジを登場させ、そのキャラクター性を認知させたあとに彼の単独作を公開する。しかも内容は『スパイダーマン:NWH』でも中心となった「マルチバース」を本格的に描くものだ。もっとも『ドクター・ストレンジMoM』と『スパイダーマン:NWH』は、コロナパンデミックの影響で公開順が逆転しているため、この考察は後付けだ。しかしこの流れでMCUに強い興味を持つ観客もいるだろう。彼らに過去作をさかのぼってもらい、できればディズニープラスに加入してほしいというのが、ディズニー/マーベルの狙いだと思われる。

 実はフェーズ4の映画作品で、ディズニープラスのドラマを視聴していないと意味不明だったシーンはすでにある。『ブラック・ウィドウ』(2021年)のポストクレジットシーンに登場するあるキャラクターは、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』にて初登場し、重要な役割を担っていた。彼女はそこでナターシャ(スカーレット・ヨハンソン)の妹であるエレーナ(フローレンス・ピュー)に接触し、そのシーンはさらにドラマ『ホークアイ』へとつながっていたのだ。

『ホークアイ』ディズニープラスにて配信中 (c)2021 Marvel

 これはディズニープラスの加入者を増やすための商業的な戦略ではあるが、そこまで非難されるようなことではない。これまでのMCUでも、ディープなコミックファンは予告編の段階からさまざまなことを察知できたが、MCUからマーベルに興味を持った観客にはさっぱりわからない、ということは多かっただろう。そこからコミックにも手を伸ばした人もいたのではないだろうか。原作がある映画というのは、そういうものだ。現在は、ディズニープラスのMCU作品がコミックと同じような役割を果たしていると考えられる。映画をより深く理解するために、ドラマシリーズを観るファンが増える可能性も高いだろう。まさにディズニー/マーベルの狙いどおりというわけだ。

参考

https://screenrant.com/wandavision-doctor-strange-2-story-connections-kevin-feige/
https://www.thewrap.com/doctor-strange-sequel-wouldnt-make-sense-without-wandavision-elizabeth-olsen-says/

■公開情報
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』
5月4日(祝・水)公開 
監督:サム・ライミ
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、エリザベス・オルセン、ベネディクト・ウォン/レイチェル・マクアダムス、キウェテル・イジョフォー、ソーチー・ゴメス
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)Marvel Studios 2022

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