『カムカム』五十嵐が彷徨う、夢と現実の狭間 松重豊「おひなを泣かすな」が刺さる

 「一秒でも長く文ちゃんと一緒にいたい。文ちゃんと暮らしたい」と願うひなた(川栄李奈)に、五十嵐(本郷奏多)は「今はまだ結婚できない」と答えた。大部屋俳優のままではだめだという。NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』が第19週初日を迎え、五十嵐が俳優として芽が出ないことへの焦りと苛立ちを募らせる。

 ひなたから見れば、五十嵐の煮え切らない態度は野球の「敬遠」のように感じられる。焦燥感に駆られている上、目の前の仕事に納得がいかず意欲が出ない五十嵐。その様子を、本郷は、どことなく締まりのない佇まいで見せる。今の五十嵐にとっては、ひなたとの未来より大部屋を出ることのほうが重要だ。とはいえ、お化け屋敷の中で、うつむき、何かを自分に言い聞かせるようにして口を結んだ姿は、ひなたのことを考えたようにも見える。

 そんな五十嵐の心の乱れを虚無蔵(松重豊)は見抜いていた。

 「日々、鍛錬し、いつ来るとも分からぬ機会に備えよ」と言う虚無蔵に、五十嵐は自身の苛立ちをぶつける。「拙者は40年斬られ続けておる」という虚無蔵を前に、五十嵐はスポットライトを浴びることができないことを「屈辱」と表した。だが、虚無蔵はそんな五十嵐の言葉に心を乱すことなくこう諭す。

「傘張り浪人とて刀を鍛えておる限りは侍だ。あべこべにいくら刀を振り回しておっても、いとしいおなごを泣かす者は真の侍にあらず」

 「俺は侍でいたいんだ」と言った五十嵐だが、今の五十嵐が求めているのは、ひなたとの関係をなおざりにしてでも大部屋を出ること、主演を得ること。けれどそれは、養成所を出たばかりの五十嵐が抱いていた志とは違うし、「侍」とも違う。「おひなを泣かすな」という虚無蔵の一言は、五十嵐の心に響く。

 しかし二代目モモケン(尾上菊之助)の左近・武藤蘭丸(青木崇高)が主演に選ばれたことを知り、五十嵐の心は再びかき乱される。新聞を握り締める本郷の手から、五十嵐のえも言われぬ悔しさが伝わってくる。第19週初日は、本郷の一挙一動から、素直で根が真面目だからこそ現状に苦しむ五十嵐の心情が痛いほど伝わってくる回となった。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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