臼田あさ美から立ち上る映画の匂い 『湯あがりスケッチ』が描き出す心に残り続ける“シミ”

 銭湯にいると、否が応でも他人の裸体が視界に飛び込んでくる。老いも若きも、その人が積み重ねてきた人生の重みを感じさせるその肌や、肉体そのものは、それだけで迫力があり、驚かされることがある。

 臼田あさ美演じる、祖母の葬儀の後、かつて祖母と共に足を運んだことがある蒲田温泉の暖簾をくぐった女性・吉川里穂もまた同様に、着替えながら、もしくは名物・黒湯につかりながら、そっと洗い場の女性たちの裸体を見つめている。時に自分自身の肌を、確かめるように、ゆっくりと触れる。思い出すのは、かつての祖母の姿。病気によってみるみる痩せ細っていった、祖母の手の皺とシミ。花に囲まれた棺の中の祖母の姿。もう今はない、祖母の肉体。

 ひかりTVにて毎週木曜日に配信中のオリジナルドラマ『湯あがりスケッチ』第3話は、小川紗良演じる主人公・澤井穂波が、日課として、暮らし始めて2週間経った、まだ目新しい街の、朝の光景の中をひた走る姿から始まる。彼女は、北千住の銭湯・タカラ湯の番頭として働きながら、各地の銭湯を取材し、緻密な実測と、建築図法に基づいた銭湯の俯瞰図を描き、さらに、そこにいる人々の姿を描き加える「銭湯図解」を描きSNSで発表している。

 本作は、彼女の日常を切り取った1場面と、仕事場である「タカラ湯」での日常と、取材先である実在する銭湯で彼女が垣間見た誰かの人生の物語からなっている。特に今回の主人公は、ゲストである臼田あさ美演じる里穂に他ならない。彼女と偶然銭湯を共にする穂波は、あくまで彼女の人生の物語の片隅に、偶然同乗する人としてそこにいるという、受け身のスタンスが心地よい。

 タカラ湯では、今日も常連客の熊谷(森崎ウィン)や、タカラ湯の主人・愛之助(村上淳)と彼の娘・ゆづ葉(新谷ゆづみ)らが、わいわいガヤガヤと冗談を飛ばし合っている。今回の話題は、溜まりに溜まった「忘れ物」をどう処分するかということ。「ヤッホー」が口癖なのか、ゆづ葉にどんなに突っ込まれてもやめない熊谷と、その友人でいじられキャラの鼓笛(熊野善啓)、ツッコミの親子、一緒に、時々困ったように笑う穂波たちのやりとりが何ともかわいらしい。そして、この「忘れ物」が、第3話のテーマでもある。

 そんな和やかなムードは、オープニングクレジットを境にガラリと切り替わり、川沿いで、前後に佇む喪服姿の女性2人という、あまりにも日本映画的なショットにドキリとさせられる。これからが祖母の葬儀で蒲田に帰省した吉川里穂が主人公の物語である。里穂の母(中村久美)と叔母(手塚理美)が、2人にとっての母親が遺した最後の漬物をつまみにビールを飲んでいる。食べ終わるのが惜しい、食べ終わってしまったらもう二度と味わうことのできない味を噛み締めながら、それでも明るく食べている。形見分けにと服や巾着やポーチを物色し、ポーチについた鈴を見て、「なくなっても平気と言って、なんにでも鈴をつける」母のことを懐かしく思い出している。だが、里穂の表情は暗いままだ。「ちょっとコンビニへ」と言いつつ喪服を脱いで家を出て、蒲田の街並みを歩く。アーケード街、飲み屋街、観覧車。そこかしこで甦る、祖母との思い出。祖母の声。そうして辿り着いたのが、かつて祖母に連れられて行った、蒲田温泉だった。

 そこでイラストを描くために訪れていた穂波と偶然出会い、湯船の中で会話する。その後、人々がそれぞれに寛いでいる宴会場でも会い、オズオズと会釈しつつ、並んでラムネを飲む。銭湯でほどけた心に、シュワシュワッとラムネの炭酸が心地よく浸透して、穂波を相手に、里穂は「病気が進行して自分のこともわからなくなっていく祖母が怖くて会いにいけなかった」というわだかまりを吐露するのだった。

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