第94回アカデミー賞受賞結果を予想 男性主人公の“弱さ”を描く作品が目立つラインナップに

長編アニメーション賞

『ミラベルと魔法だらけの家』(c)2021 Disney. All Rights Reserved.

『ミラベルと魔法だらけの家』
『Flee(原題)』
『あの夏のルカ』
『ミッチェル家とマシンの反乱』
『ラーヤと龍の王国』

 細田守監督の『竜とそばかすの姫』をはじめ、日本アニメが複数エントリーしていたこの部門。下馬評では十分ノミネートが狙える位置にあった『竜とそばかすの姫』が候補から漏れたのはなぜか。それはこの部門の“クセ”を考えればいくつかの理由が考えられる。

 例年ディズニー(ピクサーを含む)、アードマン、ライカ、ドリームワークスといった世界のアニメ映画を牽引するスタジオの作品が圧倒的な強さを放ち、同時に1枠か2枠はアート色の強い作品や海外アニメ作品が入る傾向が強い。その海外アニメ作品、とくに日本アニメの頼みの綱になるのは北米配給のGKidsのキャンペーン力にかかっているのだが、近年その勢いは衰えつつある。2010年代には新興勢力として注目を集めたGKidsだったが、ここ3年ほどでそのポジションは完全にNetflixに奪われてしまっているのだ。また海外アニメ枠として見ても、『Flee』(この作品については後述する)が強すぎたということもある。

 今年はディズニー映画が3本もノミネートを果たした。年明け以降に『ミラベルと魔法だらけの家』の評価が急激に伸び、同じディズニー・アニメーション・スタジオ制作の『ラーヤと龍の王国』への票が相対的に減れば『竜とそばかすの姫』にチャンスがめぐってくるとも思われていたが、そうはならず。つまりそれだけ今年はディズニー作品が強いということか。前哨戦で圧勝だったNetflixの『ミッチェル家とマシンの反乱』(これはものすごい傑作である)と、ディズニー勢の今年の総大将である『ミラベルと魔法だらけの家』の一騎打ちとなるだろう。

国際長編映画賞

『ドライブ・マイ・カー』(c)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

『ドライブ・マイ・カー』(日本)
『Flee(原題)』(デンマーク)
『The Hand of God』(イタリア)
『ブータン 山の教室』(ブータン)
『The Worst Person In The World(原題)』(ノルウェー)

 昨年からショートリストの枠が15に増えたこの部門。受賞最右翼は間違いなく『ドライブ・マイ・カー』である。第82回の『瞳の奥の秘密』や第89回の『セールスマン』の例はあるとはいえ、基本的に前哨戦で最も強さを見せた作品がそのまま受賞に漕ぎ着ける平穏無事な結果になるのが通例だ。ましてや主要部門にもノミネートされた作品となればかなり盤石であり、そうしたデータが日本勢にとって『おくりびと』以来13年ぶりのオスカーをぐんと近付けることになる。

 他の候補作はデンマーク、イタリア、ノルウェーと前哨戦で善戦を見せた作品が危なげなく入ったわけだが、それらと同じぐらいの活躍を見せていたイランの『英雄の証明』がまさかの落選。代わりにブータンが初ノミネートを果たした。実はこの作品、昨年にもエントリーを試みたものの必要な手続きを行うことができずにあえなく失格になってしまったという。その借りを返したというのは何ともドラマティックだ。

 また近年のこの部門の特徴のひとつが、文字通り“多様性”である。名称が変わったのも、かつての「外国語映画」という表現が時代にそぐわないということからだったわけだが、改称後は3年連続でドキュメンタリー作品がノミネートを果たしている。長編アニメーション賞で触れた『Flee』はアニメでドキュメンタリーでデンマーク映画。長編アニメーション賞、長編ドキュメンタリー賞、国際長編映画賞の3つにノミネートされる前人未到の偉業を成し遂げたのである。さらに前述のブータンを含め、昨年のチュニジア、一昨年の『パラサイト 半地下の家族』の韓国と、毎年ひとつは初ノミネート国が含まれる。

 それに加え、今年の濱口竜介をはじめ、近年ではポン・ジュノやパヴェウ・パヴリコフスキ、トマス・ヴィンターベアと、国際長編映画賞の有力作の監督が監督賞にもノミネートされることも増えている。遡れば「特別賞」や「名誉賞」とおまけ扱いだったこの部門は、度重なる改称の末に、アカデミー賞において「作品賞」に順ずるほどの価値のある大きな賞へと進化を遂げているともいえよう。そこで日本映画が輝くことになれば、それは13年前以上の栄誉ではないだろうか。

■公開情報
『ドライブ・マイ・カー』
全国公開中
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、ペリー・ディゾン、アン・フィテ、安部聡子、岡田将生
原作:村上春樹『ドライブ・マイ・カー』(短編小説集『女のいない男たち』所収/文春文庫刊)
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介、大江崇允
音楽:石橋英子
製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ビターズ・エンド
2021/日本/1.85:1/179分/PG-12
(c)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
公式サイト:dmc.bitters.co.jp

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