『劇場版 呪術廻戦 0』で知る狗巻棘の優しさ 乙骨憂太から学んだ“共闘”の道

 現在公開中の『劇場版 呪術廻戦 0』は、2020年にアニメ放送されていた『呪術廻戦』の1年前を描く前日譚。そのため、アニメ版で2年生だった都立呪術高専の生徒がまだ1年生の時を描いているため、より彼らの本質や内面的な部分を垣間見ることができる。そのなかでも、やはり呪言師・狗巻棘は作中のなかで最もたくさんのことが知れたキャラクターではないだろうか。

 1年生の時の狗巻のビジュアルは、髪型など含めその後の主人公・虎杖悠仁にとても似ている。もちろん、作者である芥見下々は映画の原作となっている通称『0巻』の方を先に発表しており、その時点では後の『呪術廻戦』のような連載化は視野に入れていなかった。そのため、狗巻が虎杖に似ているだけでなく、主人公の乙骨憂太も後の伏黒恵のような髪型だったのだ。そして連載開始後にビジュアルの差別化を図るため、それぞれ見た目を変えている。

 狗巻は一見、尖っていて怖いような印象も与える。なにより、呪言師だからこそ無闇に会話もしなければ、語彙力をおにぎりの具に絞っていることもあって何を考えているのか分かりづらい。乙骨も最初の頃はそういったことから彼のことを少し怖がっていた節がある。しかし、ともに挑んだ商店街の任務で狗巻の人となりを知ることになる。

おそらく誰よりも優しい呪言師としての一面

 

 アニメ版では、禪院真希やパンダのように高専に来るまでの過去などがあまり多く語られなかった狗巻。しかし、誰よりも気になる存在だ。まず、そもそも「語彙力がおにぎりの具しかない」という時点でかなり引きのあるキャラクターであることには違いない。余談ではあるが、1月9日にTik Tok LIVEにて行われたスペシャルトークライブに参加した、狗巻の声優を務める内山昂輝は、劇場版の収録の際に作者・芥見からおにぎりのセリフそれぞれの意味が書かれた資料を受け取っていたそうだ。そのため、その意味を把握しながらニュアンスで声の表現を変えているらしい。

 また、狗巻が気になる最大の理由は、彼が呪術界でも有名な呪言師の末裔であることだ。中でも狗巻家は呪言師を家計から絶やそうとする特異な名家として知られており、彼やその家系の謎は『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中の最新話でもまだ語られていない。アニメ版では第5話の後半で初登場。第8話では、伏黒を叩きのめそうとする東堂葵の間に入った際に呪言で彼の動きを止めた。他の2年生に比べ、その能力について割と早い段階で描かれていたが、本領発揮したのは京都姉妹校交流会編である。

 第18話で、真希に惨敗した三輪を電話越しに呪言で眠らせる狗巻。同行していた伏黒の式神である玉犬を撫でるという優しい一面を見せたと思いきや、すぐに近くにいる特級呪霊の花御の気配に気づくと、自分より格上の相手だとわかっていても一人で迎え撃とうとした。そして近くで戦っていた伏黒と加茂憲倫を安全に“逃げさせるために”呪言を使ったり、吐血をしてまでも伏黒に“切り札”を使わせず代わりに前に出たり、彼の行動は節々に仲間や後輩への気遣いが見られるのだ。そしてその性格は、乙骨のことを気にかけていた1年生の頃から変わっていない。

 狗巻が乙骨のことを入学当初から気にかけていたのは、彼もこれまで意図せずに周囲の人間を傷つけてきたことがあるからだ。生まれてから呪言が使えた彼は、何の気なしに言った一言でこれまでも相手を呪ってしまったことがある。だからこそ、もう誰も傷つけないように語彙をおにぎりの具に絞った。しかし、そうすることで(それ以前の話でもあるが)コミュニケーションにおける問題が出てくる。当たり前だが、何を言っているかわからない。そういったことも含めて、いろいろ誤解もされやすい。しかし、それでも小説『夜明けのいばら道』で外国人に道を聞かれた際ジェスチャーで何とか助けようとするなど、パンダが乙骨に説明するように、彼は善人であり続けているのだ。

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