『妻、小学生になる。』がもたらすささやかな希望 毎田暖乃の演技力はまさに憑依的!

 多くの視聴者も圭介や麻衣と同じように「そんなバカな」という気持ちだったにちがいない。だが、なかなか信じてもらえなくても、貴恵は熱心に語りかける。荒れ果てた畑にも太陽が燦々と降り注ぐように。「いつもの場所」「あの味」「あの仕草」「あの光景」……生きているけど生きていない、そんな毎日を過ごしていた圭介と麻衣の中に、再び貴恵がいたときのような光が差し込んでくる。堤と蒔田が、石田と毎田扮する貴恵の明るさに共鳴して、心境を変化させていく演技もまた見事だ。

 そして視聴者も、徐々に毎田の演じる貴恵のペースに引き込まれていく。気づけば、トンデモと思っていた奇跡の物語をすんなりと受け入れていく心持ちになっているから不思議だ。そこにあるのは「わかる」「あるある」という共感でも、「自分にも起こりそう」というリアリティでもない。いわば「こんなことがあってもいいよね」という、ほんのささやかな希望なのかもしれない。

 だが、圭介! 小学生に「君が18歳になったら結婚しよう」は、ちょっと早まりすぎだ。この奇跡を知らない周囲の人間から見れば、小学生にプロポーズをする圭介こそがトンデモおじさんだと思われても仕方がないのだから。そこは慎重に、大人として落ち着いて行動してほしいもの。だが、その圭介の不安定さも、貴恵が奇跡的に帰ってくることができた理由なのかもしれない。

「私がいなくても進んでいけるっていう姿勢を見せてよ」
「余生じゃなくて、今があんたの人生なの! もったいない生き方してないで、しっかりしっかり、生きなさい! そうじゃなきゃ安心して、小学生でいられないじゃない!」

 そんなセリフが意味深に響くのは筆者だけだろうか。もしかしたら安心できるほど圭介がしっかりしたら貴恵は……そんな予感が少しだけよぎったがひとまず振り払っておこう。さらに、貴恵の心を持った小学生の万理華にも、家庭の事情や小学生らしい学校生活もある。なかなか一筋縄にはいかない事態が続きそうだ。

 だが今はもう少しだけ、世知辛く混乱の多い日常を忘れて、浮かれる圭介と一緒になってムフフとしていたい気持ちだ。悲しみで止まっていた時間が動き出す、その奇跡を微笑ましく眺めながら。 

※参考
1.堤真一が語る“親心” 「『ダメ』ではなく『やってみな』と言えるようになりたい」
https://realsound.jp/movie/2022/01/post-950756.html

■放送情報
金曜ドラマ『妻、小学生になる。』
TBS系にて毎週金曜22:00~22:54
出演:堤真一、石田ゆり子、蒔田彩珠、森田望智、毎田暖乃、柳家喬太郎、飯塚悟志(東京03)、馬場徹、田中俊介、水谷果穂、杉野遥亮、小椋梨央、吉田羊
原作:村田椰融『妻、小学生になる。』(芳文社『週刊漫画 TIMES』連載中)
脚本:大島里美
プロデュース: 中井芳彦、益田千愛
演出:坪井敏雄、山本剛義、大内舞子、加藤尚樹
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tsuma_sho_tbs/
公式Twitter:@tsumasho_TBS

関連記事