『劇場版 呪術廻戦 0』は禪院真希にとっても“解呪”の物語だった 乙骨憂太との相互作用

 そして、乙骨もまた彼女自身にかかった“禪院家”という呪いを解く。夏油が高専に侵入して間もないころ、2人で教室に残って話すシーンで、真希は夏油に落ちこぼれと言われた件について、初めて自分の身の上話をする。そこで彼は、彼女が苗字で呼ばれたがらない理由や呪力について聞くな、と言っていた本当の意味を理解した。そして乙骨に呪術師を続ける理由を聞かれて、「一級術師として出戻って家の連中に吠え面かかせてやるんだ。そんで内から禪院家をぶっ壊してやる」と答える、真希。この時、現当主の禪院直毘人に啖呵を切ったように「“当主”になる」という目標については口にしていない。そこに、どこか彼女自身の自信の揺らぎが垣間見えるのだ。いくら能力や才能があっても呪力を持たない自分が“禪院家”の当主になることはないと、心のどこかで思っていたのかもしれない。

 しかし、乙骨はそんな彼女に対して魔法の言葉を何の気なしに口にする。

「僕は、真希さんみたいになりたい。強くまっすぐ生きたいんだ」

 ずっと、恥だと、「真希のようにはなるな」と存在や生まれてきたことを16年間否定されてきた、真希。夏油との対峙だって、真っ向から「猿」だの「私の世界にはいらない」だの言われてしまったため、さらに自分自身の価値に揺らぎも覚えたはず。実は彼女もそういった意味で、最初の頃の乙骨のように自分の生存肯定をしづらい立場にいて、だからこそ彼の気持ちも理解できたのではないか。真希が乙骨にそれを認めてあげたように、今度は乙骨が真希に「生きてていい」という気持ちを芽生えさせたのである。

 照れ隠しをするように、「バーカ」と言って教室を出た彼女は、その場で顔を赤らめさせる。公式ファンブックでは作者の芥見が、ネーム段階ではここで真希が泣きそうになっているように描いたと語っている。しかし、それは何だか“違う”ということで、あの表情に至ったらしい。

 1年後の京都姉妹校編で、「なぜ私と一緒に落ちぶれてくれなかったの」と涙ながらに真依に訴えられた真希。彼女は「自分が嫌いな自分にならないために」と答えた。子供の頃、呪霊が見えないこともあって怖いもの知らずだった。そういう元来、強く正直だった自分を思い出させてくれたのは乙骨であり、彼との出会いを通して成長した真希はこれからも “強くまっすぐ生きていく”のである。もちろん、乙骨が加えて言った「禪院家ぶっ壊そー」という言葉も、忘れずに。

■公開情報
『劇場版 呪術廻戦 0』
全国公開中
声の出演:緒方恵美、花澤香菜、小松未可子、内山昂輝、関智一、中村悠一、櫻井孝宏
原作:『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』芥見下々(集英社 ジャンプ コミックス刊)
制作:MAPPA
配給:東宝
(c)2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会 (c)芥見下々/集英社
公式サイト:jujutsukaisen-movie.jp
公式Twitter:@animejujutsu

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