『スパイダーマン』だけじゃない ウィレム・デフォーの怪演の数々を振り返る
個人的にはアカデミー賞で助演男優賞にノミネートされた『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』での演技はデフォーのキャリアハイともいえる名演、怪演であったと感じる。F.W.ムルナウの名作ホラー『吸血鬼ノスフェラトゥ』の撮影現場を描いた同作でデフォーが演じていたのは、実在の俳優マックス・シュレック役。あらゆるホラー映画における吸血鬼描写の土台となったシュレックの演技は、当時本当に吸血鬼なのではないかと噂が立てられたわけで、それを“本当に吸血鬼”だとして描くのである。ともあれば、デフォーはシュレックになりきり、同時に吸血鬼にもなりきる。デフォーが醸し出すその雰囲気は、デフォー自身ももしかしたら……と思えてしまうほど。
もちろん悪役でも狂人でもなければ吸血鬼でもない、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のような役柄もなんなくこなす。90年代から確かに巧い俳優であったことは間違いないが、2000年代以降、とりわけ出演作が軒並み高評価を得るようになったこの数年で、さらに磨きがかかっている印象を受ける。そういった意味で『ノー・ウェイ・ホーム』のグリーン・ゴブリンは、『スパイダーマン』の時よりも格段に進化したものであるといえよう。150分もある突き抜けた娯楽映画に強烈なスパイスを与える貫禄の演技。それが観られるだけでも歴史的な映画ではないか。