一風変わった飯テロドラマ 『失恋めし』は新たな明日に向かうための勇気をくれる

 「失恋めし」という言葉から連想するものは何だろう。大好きな人との恋が実らなかった、別れを切り出された、裏切られた、辛い、許せない、もうヤケだ……。いろんな感情の入り混じった、しょっぱい涙の味だろうか。そうとは限らない。

 1月14日からAmazonプライム・ビデオにて配信が開始された、広瀬アリス主演ドラマ『失恋めし』は、なんだか心が温かくなって、明日にでも恋がしたくなるドラマだ。そして、無性に何か食べたくなる。例えば、広瀬演じるヒロイン・キミマルミキら登場人物が食べている、大学いも、玉子サンドといった、何か黄色いものを。「失恋しても美味しいものを食べて元気になれば大丈夫」と彼女たちがそっと背中を押してくれる。このとんでもなくハッピーで、愛おしい、時にファンタジックな、恋とご飯と、素敵な街の物語を、彼女がよく行く縁結びの神社によくいる「クリーン星人」に成り代わって、全人類にお薦めしたい。

 世に「飯テロドラマ」は数多くある。元祖と言われる『孤独のグルメ』(テレビ東京系)に始まり、現在1クールに必ず1作品以上は存在している。今期も『失恋めし』の他に、眞島秀和主演『#居酒屋新幹線』(MBS/TBS)が放送中だ。特に動画配信サービスが普及していくにつれて、視聴者が、新作旧作関係なく様々なラインナップの中から、好みの作品をそれぞれのシチュエーションに合わせて選ぶ環境が整ってきた。そんな中で、気軽にいつでもどこでも、何年経っても変わらず楽しめる、長く愛されるコンテンツとして、「飯テロドラマ」というジャンルの需要はますます高まっている。

 そんな中、『失恋めし』は一風変わった飯テロドラマだ。木丸みさきのグルメコミック『失恋めし』(KADOKAWA)を原案に、大九明子監督が演出を担当している。舞台は、どこか懐かしい感じがする、架空の一区画「丸々区三角町」。そこには賑やかな商店街や神社、花屋、そしてヒロインが連載するエッセイ漫画「失恋めし」を掲載している街のフリーペーパーを発行する会社「STO企画」がある。STO企画には、社員全員が「佐藤さん」であるために、それぞれを1号2号3号と呼び合う、臼田あさ美演じる「2号さん」を中心とした個性的な面々が自由気ままに働いていて、弁当屋のハラハチ(若林拓也)が日々弁当を届けにやってくる。ミキが住む一人暮らしの部屋の中も、『勝手にふるえてろ』、『私をくいとめて』など、大九監督作品のヒロインたちの部屋の様子をつい思い出してしまうような、こぢんまりとした味のある構造になっていて、見ていて飽きない。そんな、心温まるユートピアのようで、誰にとっても近所のような雰囲気の、架空の街が舞台でありながら、登場する店と料理は実在する面白さ。浜松町の「洋食や シェ・ノブ」のカニクリームコロッケ、蔵前の「焼小籠包ドラゴン」の焼小籠包、北品川の「居残り連」の酒盗カルボナーラといった絶品料理の数々を、失恋した人と、失恋した人を慰める人と、漫画の題材となる失恋ネタ探し中のミキが、全てを忘れてカリッじゅわサクサクっと夢中で咀嚼するそのさまは「本物」なのである。

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