セレブなし、放送なしでひっそりと開催 新会員が内部から見た第79回ゴールデングローブ賞

第79回ゴールデングローブ賞を内部から総括

 現地時間1月9日に行われた第79回ゴールデングローブ賞は、NBCによるテレビ中継もネット配信もなく、主催のハリウッド外国人記者協会(Hollywood Foreign Press Association = HFPA)の公式サイトとSNSでの発表という、異例の授賞式となった。授賞式会場のビバリー・ヒルトン・ホテルには、HFPA会員と、各賞のプレゼンターを務める映画に関する非営利団体や慈善団体、映画祭などの関係者が集っていた。出席するには3度のワクチン摂取と、48時間以内のPCR陰性証明が必要で、式典中は配布されたマスクの装着が義務付けられた。

 今年の北米映画賞レースは、オミクロン株の感染拡大から延期や中止が相次ぎ、混乱を見せている。現地時間3月27日に開催予定の第94回アカデミー賞授賞式は、昨年のロサンゼルス・ユニオン駅からハリウッドのドルビーシアターに会場を戻し、ここ数回は各賞プレゼンターを充実させることで担っていたホストも復活させる。もちろん、ABCによるテレビ中継も行われる。

第79回ゴールデングローブ賞
(c)Hollywood Foreign Press Association. All Rights Reserved

 ゴールデングローブ賞に関する日米の報道を比べると、大きな隔たりがある。アメリカでは、スターが勢ぞろいする豪華な“ハリウッド最大のパーティ”を売り文句にしていたゴールデングローブ賞が、セレブリティの出席も放送もなくひっそりと授賞式を行うことを揶揄したものが多く、日本では濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が日本映画として62年ぶりに非英語映画賞を受賞したことを報じるものがほとんどだ。

 HFPAがハリウッドにキャンセルされた理由と経緯は、2021年5月の記事(参考:窮地に立たされたゴールデングローブ賞 数々の暴露やボイコット、批判などを時系列で解説)で書いた。その後、筆者プロフィールにもある通り、2021年10月からHFPA会員となり、第79回ゴールデングローブ賞の投票権を得た。会員になった理由はいくつかあるが、最も大きいのは、小さな存在であるいち外国人がハリウッドの核心に近づくには、ほかに手立てがないから。このスキャンダルを好機と捉えて覇権を握ろうとしている放送映画批評家協会(Critics Choice Association = CCA)が新しく設立した外国人記者部門にも応募したが、HFPAの新会員発表報道直後に「貴殿の入会は認められません」とのお断りメールが届いた。

 アメリカにおける報道の傾向は、国外のメディア向け報道を行う外国人記者によるHFPAと、アメリカのメディアで映画批評を行う米国人ジャーナリストたちを擁するCCAの対立構造によるものだと気がついた。組織内で共有される事実と異なるニュースが報道されることもあった。リアルサウンド映画部で書いた記事は、執筆時に信頼のおける情報機関の記事をもとに構成したが、その中には憶測や根拠不明の情報を含む記事もあったのだろうと反省した。賄賂授受は双方が責任を問われる問題なのに、受賞の冠欲しさに便宜を働いていたスタジオに対するお咎めの論調は見られない。権威ある有名メディアの報道も、事実検証もなしに「HFPAは記者とは呼べない外国人による組織」としている。「黒人会員が皆無」と人種問題を議論する記事内で外国人差別を平然と行う、ミイラ取りがミイラになる状況が起きている。

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