小川紗良、初のフォトエッセイに込めた自分らしさ 「誰かの救いに少しでもなれたら」
小川紗良が初のフォトエッセイ『猫にまたたび』を昨年12月1日に出版した。同書籍では、彼女が愛してやまない映画、魔法少女、ハロプロについて熱く綴った書き下ろしエッセイ、初の長編監督作『海辺の金魚』のメイキングとも呼べる特別絵日記、そして注目の若手フォトグラファー増田彩来とのふたり旅の模様を収めた撮り下ろし写真、恩師・是枝裕和監督との対談など、25歳を迎えた彼女の魅力が凝縮された一冊となっている。
コロナ禍によって生活が一変した中で、どんなことを思いながらエッセイを執筆していたのか。率直な思いを聞いた。
「書くこと」で伝えられるもの
ーー25歳という節目のタイミングでの出版となりました。改めて本書を執筆・制作してみていかがだったでしょうか?
小川紗良(以下、小川):初めにお話をいただいたときは、「私でいいのかな?」という思いもあったのですが、「はじめに」に書かせていただいたとおり、“おこがましい”気持ちでお引き受けしました(笑)。完成まで約10カ月ほど、この本に向き合えた期間はとても大切な時間となりました。本当に好きなものを観て、聴いて、考えて書いたものなので、私自身とても楽しい時間でした。
ーー「リアルサウンド映画部」でも映画評を書いていただきましたが、小川さんは監督業、俳優業に加え、「文筆家」としても活躍されています。もともと文章を書くことは好きだったのですか?
小川:書くことは学生時代からずっと好きでした。作文を書くのも好きでしたし、先生方が褒めてくださったこともあって、さらに好きになっていきました。お仕事を始めて、Webなどでも書く機会が増えてからは、自分の想像以上に多くの方に読んでいただけるようになって。ときには大胆なことを書いてみたりしていたのですが、意外と皆さんも受け入れてくださって。話すよりも書く方が私は思いを伝えやすいと感じています。今は文筆業が一番本音を出せる場になっていますね。
ーー『猫にまたたび』でもかなりご自身のことをさらけ出しているなと感じました。格好をつけていない、小川さんの身体から出ている文章だなと。
小川:私は評論家ではないので、映画のことを書くと言っても、映画を通した自分の話を書くしかないんですよね。誰もがそうだと思いますが、どんな作品でも必ず自分の何かにつながる部分があると思うので。その部分を書かないと自分なりの映画評にはならないのかなと。あとは、「嘘をつきたくない」というのが、文章を書く上で一番大きいものかもしれません。インタビューでお話をする際は、やっぱり“建前”な部分が出てしまうというか、全部を本音でしゃべったら迷惑をかけてしまうこともあるわけです。でも、自分で書くときは自分に責任があるので、1番自由でいられるなって。
ーーなるほど。本書では思春期の頃の赤裸々な思いも書かれていますが、そこには抵抗もなく?
小川:意外とその点は気にならないんですよね。多分、インタビューなどで自分のことをしゃべるとすると、どうしても取り繕おうとしてしまうんですけど(苦笑)。思い返してみると、誰かに自分の思いを伝えたいときは、昔から手紙を書いていたんです。口頭だと本音で言えないことも、手紙だったら伝えられることが多くて。だから、「書くこと」が伝える手段として自分に合っているんだなと改めて思います。
ーー『猫にまたたび』を読んでいると、何もできなかった過去の自分が救われたような感覚になる瞬間がありました。あのとき感じていた鬱憤や葛藤は自分だけじゃなかったんだと。きっと、現在進行系でそんな思いを抱いている10代~20代の方にはとても響くものがあるのではと感じます。
小川:うれしいです。私自身も2020年~2021年はコロナ禍もあって、映画を公開しても思うようにイベントができなかったり、舞台『演劇の街をつくった男』も中止になってしまって。もどかしい時間が非常に多くて、気持ちが沈んでしまう時期もあったんです。そんなときは無理やりポジティブになろうとするんじゃなくて、何かに没頭するのが一番。私にとっては、好きな作品に触れて、文章を書くという、このフォトエッセイ作りに没頭することで、いろんなモヤモヤから逃れることができたんです。私自身がこの本を書くことで救われたところがあるので、読んでくださった方の救いに少しでもなれたらとてもうれしいです。
ーー小川さんにとっても、本の制作が救いになっていたことはうれしい限りです。
小川:これまでとは時間の流れ方がちょっと変わったからこそできたことだったなと思います。あと、実は表紙の写真でも着ているオーバーオールは『演劇の街をつくった男』で着るはずだった衣装なんです。だから、こうして形として残せたことで少し報われた部分もあるのかなと。