『カムカム』はドラマ版『ファミリーヒストリー』? 底流にある日米の文化の相克

 安子がアメリカへ渡った背景にも、家制度からの解放という意味が見て取れる。父の遺言である「たちばな」の再興と雉真家の嫁としてるいを育てる責務、それらは安子自身が望んだことでもあった。これについて、ロバートが安子にかけた「あなたはもう十分苦しんだ」という言葉が印象的だ。そこには罪をあがなうことで救済されるという思想がある。集団を尊重する日本社会からは出てこない言葉だ。個人主義の文化で育ったロバートには、安子が家のくびきによって苦しんでいるように見えた。安子のアメリカ行きは、直接的にはるいの拒絶が原因だったが、家というしがらみの中で自由を求めたことの必然的な帰結であり、集団から個人への生き方の転換でもあった。

 『カムカムエヴリバディ』の底流には日米の文化の相克がある。外来文化の受容は純文学の中心的な主題であり、文学の王道テーマを取り入れて3倍濃縮した朝ドラが本作と言っても過言ではない。アメリカとの関係を問い直すことは、私たち自身の文化的なルーツをたどることでもある。昭和20年代、進駐軍の兵士と結婚して海を渡った女性は少なくなかった。なかには安子のように夫を亡くし、あるいは家族と離ればなれになった人もいたことだろう。2つの文化の狭間で紡がれる家族の物語。そこには一人ひとりの語られるべき歴史があるはずだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4:seven:K30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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