上白石萌音が牽引した『カムカムエヴリバディ』安子編 少女から母への巧みな演じ分け
だからこそ、喜んで受け入れた自身の使命だけを原動力にたった一人突き進む中、起きてしまった大阪での交通事故の悲劇は安子にどれだけの衝撃、強烈な後悔を深く鋭く残していったか想像に容易い。るいの額の傷は安子の心の傷であり、一生消えない後悔と懺悔の証でもあるのだろう。きっと安子の中では、あの瞬間、稔や大切な家族を奪われた時の喪失感がどっと押し寄せてきたように思う。呆然としながら、半ば放心状態で、それでもとにかくるいの近くに駆け寄ろうとする安子の姿は頭で考えるより、心で感じるより先に体が反射的に何かに取り憑かれたかの如く動いているようで正気の沙汰ではなかった。稔の戦死を聞かされた後、神社で膝から崩れ落ちた安子の姿が思い浮かんだ。
上白石演じる“愛し守られる側”から“愛しぬき守り通す側”に成長した安子が圧巻なのは、“愛す側”としてるいに接する際に、彼女がかつて稔や家族から“愛された”優しい記憶が、温かさがずっとずっと側に片時も離れることなくあることだ。安子の心の中にずっとずっと忘れることのない稔の息吹が今なお絶やされることなく残っているのが感じられる。
それゆえ、米軍将校・ロバート(村雨辰剛)の開講前の英会話教室で未来に胸を膨らませながら、るいと3人でおはぎを囲む姿が、どうしたって安子が望んでも叶うことのなかった稔とるいがいる食卓のように、家族団欒の一幕のように見えてしまう。
次週予告編によると、遂に安子編も幕を下ろし、るい編への切り替えが見られるようだが、ロバートが言った通り、るいだけでなく安子にも“ひなたの道を歩いてほしい”と願った稔の想いはどんな形で結実するのか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか
写真提供=NHK