『のほほん』が描く結婚以外の選択肢 ルームシェアの酸いも甘いも見せるリアリティを分析
最近では“結婚しない自由”が徐々に浸透している。一方、「孤独は毎日タバコを15本吸うくらい危険である」といった孤独のリスクも問題視されており、「結婚したくないけど、独りは嫌だ」と考える人は少なくない。ただ、そんな複雑な時代だからこそ『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(NHK総合) は希望を与えてくれる。
タイトルの通り、作品の空気感は終始のほほんとしている。しかし、配偶者の親族と家族になる煩わしさ、育児の方向性による諍いなど、結婚時に生じる様々なストレスを除外し、そのうえで孤独感を忘れさせてくれる“都合の良い”ルームシェアライフを送っているわけではない。他人と暮らすことのダルさを正直に表現しているだけでなく、ルームシェアだからこその面倒臭さも包み隠さずに見せてくれる。
例えば、第2話ではミホ(安藤玉恵) が紙パックで作ったボリューム満点のゼリーを食べようとする。ただ、ミホは「食べる?」とエリコ(木村多江)に確認することなく一人でペロリ。エリコは「やだぁ2人で暮らしてるんだから少しぐらいちょうだいよ! もう」と駄々をこねるが、確かに「エリコにも分ければ良いのに」と思う。しかし、エリコはお客様ではなく共同人。家庭内の楽しみをいちいち分け合う必要はない。ルームシェアだからこそ生じる絶妙なストレスを表現したシーンだ。
また、第1話~第4話まではエリコを軸にストーリーが展開されるため、ミホに振り回されるエリコの葛藤が主に描かれているが、ミホがメインの第5話では少々様子が変わる。エリコがピンでテレビ番組に出演した際、“押入れの片付けが進んでいない”という悩みを話す。その番組を見ていたミホは、気を利かして押入れを片づけてあげる。ただ、エリコは帰宅後、整理整頓された押入れを目にし、押入れという自分のテリトリーを勝手に侵されたことに激怒。あまり取り乱さないエリコの急変に加えて、エリコの意外な地雷にミホは困惑する。一視聴者としては「せっかく片付けれもらったのだから、感謝の言葉があってもいいのに」という感想が頭を過ぎった。
とはいえ、“思春期の子供が親に部屋を掃除されてブチギレる”という話はよく聞くように、仲の良い他人同士のルームシェアでも例外ではない。善意が当人にとっても善意であるとは限らず、時には思わぬ地雷を踏んでしまうこともあり、ルームシェアの難しさを感じさせられる。