『セサミストリート』初のアジア系アメリカ人マペット“ジヨン”に託された希望

 アメリカの国民的子供向け番組『セサミストリート』に、韓国系アメリカ人の女の子“ジヨン”が仲間入りした。番組として初となるアジア系アメリカ人のマペットとなった彼女、その姿を通じて『セサミストリート』が映し出すメッセージとはどんなものだろうか。

 1969年の放送開始以来、『セサミストリート』は「多様性」「公平性」「インクルージョン」の上に成り立つコミュニティーとして、子供たちを楽しませながら社会問題に関する教育の場となるため刷新を続けてきた。2020年10月には反人種差別をテーマとする特別番組『The Power of We』が放送され、アフリカ系アメリカ人マペット、ガブリエルとその従兄弟タミールが、自分や周囲の人のアイデンティティーを尊重し、人種差別に立ち向かう方法について理解を深めた。また今年にはアフリカ系アメリカ人の親子マペット、ウェスリーとイライジャが登場し、エルモから投げかけられる肌や眼の色などに関する質問について答えた。

I Am Somebody (Giant Song) | #ComingTogether

 こうした内容が放送された背景には、かねてより問題視されてきたアメリカ国内における人種への偏見に基づくヘイトクライムが、近年さらに激化していることがある。新型コロナウイルス感染拡大以降は、アジア・太平洋諸島系アメリカ人に対するヘイトクライムがこれまで以上に急増。2021年の被害件数はわずか半年間で前年度の総数を上回り、被害が深刻な「身体への暴行」をはじめ「言葉での嫌がらせ」、無視などの「排斥行為」などが報告された。※1

 この時流を受け、番組の制作団体「セサミワークショップ」は、放送内容を専門的見地から検討し、人種・民族性・文化間平等に取り組む特別チームを設立。制作スタッフと専門家との広範な調査と協議の末、誕生したのが番組初のアジア系アメリカ人マペット・ジヨンだった。※2

Sesame Street In Communities 公式YouTubeチャンネル動画より

 では、ジヨンとはどんなキャラクターなのだろうか。彼女自身が答えたインタビューでは、まずジヨン(Ji-Young)という名前について、韓国の人名は二つの音節がそれぞれ異なる意味を持ち、“ジ”は賢い、“ヨン”は勇敢を表すことが説明される。またおばあちゃんと韓国料理を作ることやスケートボード、エレクトリックギター演奏に夢中であるといい、お気に入りはLA発のパンクバンド、ザ・リンダ・リンダズであることも明かされた。「彼女たちはとってもカッコいい女の子で、ほとんどがアジア系アメリカ人。私のヒーロー。もしセサミストリートに来てくれたら、私が案内するよ!」※3

 名前の意味やトッポキの美味しさといった自らの文化的アイデンティティ、そして熱中する趣味について分かち合うジヨンの人格形成には、彼女の演技者である人形術師キャスリーン・キムが関わった。韓国系アメリカ人であるキャスリーンは、ジヨンの魅力を“韓国の文化を誇りに思い、周囲の人々に共有することを幸せに感じていること”とし、こう語っている。「アジア系アメリカ人は出身に関係なく“アジア系”と一括りにされる。だからこそ、韓国系ではなく韓国系アメリカ人と“具体化”することがとても重要でした」※4

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