『二月の勝者』は“子役のため”に用意された作品? 柳楽優弥ら大人側のキャスティングの妙

 どの時代にも“天才子役”と謳われる才能は少なからず存在していて、彼ら・彼女らの才能を伸ばす土台となる作品が、映画やドラマを問わずしっかりと用意されてきた。それ自体は近年でも変わらないことだろう。ただ、かつてのように同世代の大勢がひしめき合うタイプの作品の中で頭角を現していくという、ある種の可視化された競争社会でなくなってしまった印象は否めない。

 例えば、朝ドラなどで主人公の幼少期を演じる子役がいかに表現力が豊かであっても、比較対象がなければ見落とされかねない。相対評価よりも絶対評価を優先するような時代の流れだと言ってしまえばそれまでだが、相対評価だからこそ気付ける伸びしろの大きさというものは確かにあって、ましてや大人を相手にしたどこか畏まった演技よりも、同世代がわちゃわちゃとした空間のほうが子どもたちのリラックスした、生々しい空気感が画面越しに伝わってくるものだ。

 20年から25年ほど前までには、『学校の怪談』シリーズのように子役を中心にした映画があったり、プライム帯のテレビドラマにも『みにくいアヒルの子』(フジテレビ系)や『先生知らないの?』(TBS系)や『ガッコの先生』(TBS系)といった小学校を舞台にした作品が放送されていた。そこで頭角を現した子役が成長すると、今度は『3年B組金八先生』(TBS系)に代表されるような中学校を舞台にした学園ドラマへと進み、さらに高校を舞台にした学園ドラマがその先に待っている。その過程で、まるで中高一貫校における外部進学生のような、子役を経ていない別路線から来た同世代の俳優たちと出会い切磋琢磨を重ねることによって、俳優としての将来が決まっていくのである。

 少し前だと『女王の教室』(日本テレビ系)や『悪夢ちゃん』(日本テレビ系)が小学生を描き、前者では志田未来や伊藤沙莉、後者では大友花恋や豊田ルナが現在も活躍している代表的なところだろうか。今年の1月クールに放送された『青のSP―学校内警察・嶋田隆平―』(カンテレ・フジテレビ系)は中学校を舞台にした物語であり、鈴木梨央や田中奏生、豊嶋花といった子役として活動歴が長い顔ぶれがそろい、そこに吉柳咲良や米倉れいあ、宮世琉弥といった同世代の別路線組が加わる充実ぶりを見せていた。

 “若手俳優の戦国時代”と言われて久しいが、それはあくまでも高校生以上が中心だ。先日まで放送されていたWOWOWの『ソロモンの偽証』も、映画では原作通り中学校を舞台にしていたが、WOWOW版では高校生の物語に脚色されていた。作品のターゲット層が特に絞られやすい学園ものは映画・ドラマどちらにおいてもなかなか作られづらくなり、高校生の物語も描かれなくなればそれよりも若い世代の物語は忌避されるのは必然である。ましてや少子化や趣味の多様化によって“同世代”の物語を摂取しようとする子どもたちも少なくなったのか、はたまた“子役らしい”演技を白々しく思えてしまう世知辛さか、子どもを取り巻く物語が画一化されてしまったのか。いくつもの要因が考えられるなかで、まだ頭角を現してすらいない子役が発掘される機会は確実に少なくなっているのである。

 その現状を踏まえれば、舞台が「学校」ではないにしても大勢の小学生たちが物語の中心に立つ『二月の勝者-絶対合格の教室-』(日本テレビ系)は、久しぶりに“子役のため”に用意された作品と言ってもいいだろう。柳楽優弥演じる冷徹な塾講師・黒木蔵人が校長を務める「桜花ゼミナール」という学習塾を舞台に、中学受験を目指す小学6年生たちを軸にして、毎回誰かしら生徒にフォーカスを当てた物語が展開していく。31名いる生徒役の顔ぶれを見てみれば、『俺の家の話』(TBS系)で長瀬智也の息子を演じていたジャニーズJr.の羽村仁成や、朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)の川島夕空、『なつぞら』(NHK総合)の粟野咲莉といった朝ドラ出身子役。そして市川海老蔵の長女・市川ぼたんと、まさに粒揃い。

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