『カムカムエヴリバディ』安子は上白石萌音の運命の当たり役に 類まれなるヒロイン性

 ただそれだけ心優しい素直な子だからこその、縁談話や稔との立場の違いが実感されるシーンで、相手を思うがゆえ、自分の中に悲しみや葛藤を閉じ込めてしまう演技もまた上白石の得意とするところ。今作でも第8話では、縁談の話を受けた安子が、稔のいる大阪に向かう列車での、別れることへのケジメなのか、愛を確かめに行くのか、迷いとも覚悟ともとれる思いつめた表情、一緒に夕日を見ながら本当に伝えたい言葉を英語でカモフラージュするかのような英会話のやりとりでの初々しい姿など印象的な演技が多くあった。

 帰りの列車内でずっと泣き続ける安子は、別れを決めた悲しみと、思いをストレートに伝えることはなく稔の優しさに触れ、自分の想いではどうにもできない運命の悔しさを滲ませていた。常に笑顔だっただけに、1人になった時に切なさが一層感じる揺り返し演技の妙。短い時間の中で、少女が精神的に成長していく姿をしっかり見せるなど、上白石の緻密な演技プランを感じる。

 こうした平和な時代の前振りを作ったことで、ここからが上白石の本領が発揮されると予想。戦争でさまざまなものを失いながらも、騒乱の時代を力強く生き抜いていく姿が期待される。これまで上白石が演じてきた役柄は、ピュアさとともに、心が折れずに突き進んでいく強さをあわせ持つ、一生懸命に生きる姿が魅力的だった。ミュージカルで鍛えてきた芯のある演技が、激動の時代の希望になるべく存在感を見せてくれるはずだ。

 今回、ドラマの行く末を決める第一走者に選ばれた上白石。視聴者の気持ちを晴らすようなその屈託のない笑顔は、従来の朝ドラファンも引き込みやすく、ドラマの掴みとしてまず成功していたように思う。ここから激動の時代を迎え、そのギャップでどこまで上白石の演技が視聴者の心を動かすことができるのかがさらなるターニングポイントになりそうだ。

 ちなみにInstagramなどで載せていた直筆の文字が綺麗というのは以前から有名で、今作での文通の手紙も直筆。その思いがこもった丁寧な字は、安子の性格や育ちの良さなどが伝わるのに一役買った。またスペイン語と英語を得意としている上白石は、今は辿々しい英会話だが、徐々にその実力を発揮していくのではないだろうか。演技だけではない部分で上白石のスペックが生かされる『カムカムエヴリバディ』の安子役は、まさに運命の当たり役と言える現状だ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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