『無職転生』なぜ大ヒット? “男”のリアルな人間像と作り込まれた美術設定

 いわゆる中世ヨーロッパをモチーフにした架空の異世界を舞台にしていることもあり、作品世界に則った美術設定は非常に細かい。長年背景美術に携わってきた三宅昌和やプロップデザインにアニメーター・今村亮らを起用。そのほかにも彼らを筆頭に、美術・小物設定などを含めて多くのスタッフが招集されていることもあり、描かれ方もキメ細かく、重厚さすら感じられる。

 大空の下にある田園風景、厳かな城や門、にぎやかな市街地、ルーデウスたちが冒険する湿地帯や砂丘などハイファンタジー作品としては非常にベーシックであるが、その舞台背景からは一つ一つ作りこんだ丁寧な質感が伝わってくる。ルーデウス役・内山夕実が「映画館で見られませんか?」とインタビュー中に話すほどの作りこみは、いわゆる深夜アニメ帯で放送されるアニメ作品としては異質さすら感じられよう。

 剣と魔法を軸にしたバトルシーンでも、剣の振りかざしから振り下ろし、走って飛びあがり相手を蹴り上げるといったアクションには独特のケレン味を感じられ、ブレなどを活かした視点移動やフォーカスイン/アウトなどのカメラワークがリズムよく挟まることで、飽きることなく鑑賞しつづけることができる。気づかずに見落としてしまうような細かいテクニックが、視聴に大きな作用を与えている。

 OPテーマが流れる際には固有のOPアニメーションとともに流れる定番の手法ではなく、各話ごとに即したアニメーションとともに流れるという手の込みよう。そういった点からも、本作品がいかにストーリーや世界観にこだわって描いているかが伝わってくる。

 本作主役のルーデウス役を演じるのは、幼少期・青少年期の役に内山、前世の男・モノローグ役に杉田智和と1役2人体制で演じている。ご時世の関係上、2人が一緒に収録できた機会は少ないとのことだが、杉田は収録済みの内山の声を聞きながら自身の演技に臨むという徹底ぶりだ。

 お互いの演技が絡み合いながら作られるルーデウスは、杉田がモノローグを、内山が実際の会話を担うことで、本音と建前を使い分けるキャラクターとして描かれ、特に正邪善悪について思考を巡らせる緊迫した場面では温度感がピタリと合った演技になっている。

 ハイファンタジー作品として非常に大きな世界観を描きながら、一人の男性を中心にしたライフストーリーとしての描いた本作。現在放送中の第2クールはまだ幼少期ということで10歳そこそこのルーデウスではあるが、最後までアニメ作品として描くとなるとここから20年以上の歳月を描くということになる。アニメ作品としての高クオリティぶりをみれば、数年来に渡って続いていくロングランなアニメ作品へと変化していく余地は十二分にあり得そうだ。 

■放送情報
『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』
TOKYO MX、KBS京都、BS11にて、毎週日曜24:00〜放送
サンテレビにて、毎週日曜24:30〜放送
声の出演:内山夕実、杉田智和、小原好美、加隈亜衣、茅野愛衣、森川智之、金元寿子、Lynn、浪川大輔、豊口めぐみ、津田健次郎、井口裕香、小山力也、河西健吾、くじら、田中理恵、大塚芳忠
原作:理不尽な孫の手(MFブックス/KADOKAWA刊)
キャラクター原案:シロタカ
原作企画:フロンティアワークス
監督・シリーズ構成:岡本学
助監督:平野宏樹
キャラクターデザイン:杉山和隆
サブキャラクターデザイン:齊藤佳子
美術監督:三宅昌和
色彩設計:土居真紀子
撮影監督:頓所信二
編集:三嶋章紀
音響監督:明田川仁
音響効果:上野励
音楽:藤澤慶昌
テーマソングプロデュース・歌唱:大原ゆい子
プロデュース:EGG FIRM
制作:スタジオバインド
(c)理不尽な孫の手/MFブックス/「無職転生」製作委員会
公式サイト:http://mushokutensei.jp

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