良薬は口に苦し 小野花梨×見上愛『プリテンダーズ』が容赦なく描く現代社会のリアル

『プリテンダーズ』が映す現代社会のリアル

 「炎上」はこの社会において深刻な問題だ。たしかに、火をおこせば人は集まってくるものだから、注目を集めるためには手っ取り早い。しかしこれは基本的に、ネガティブなエネルギーを燃料としている。関わった者の誰もが平気でいられるわけではないし、ときにそこから舞った火の粉が、思わぬところに燃え移ることだってある。思いがけず傷を負うのは当事者だけだとはかぎらない。あまりに無邪気で無知な花梨は、そういった想像力が欠けているのだ。私たちの実社会では、謝罪する者、開き直る者、沈黙する者などいろいろだが、行き着く先は同じ。そう簡単に許されることも、逃げることもできない。徹底的にまで追い詰められる。本作はそのことまでを、容赦なく描いている。

 なぜ花梨はプリテンダーズとして、このようなことをしようとするのか? そこにはやはり、“ふりをしている”自分に、振り向いてほしいから、気づいてほしいから、認めてほしいから、という思いがある。彼女はゴッホに憧れーーというか、自身のことをゴッホと重ねている。ゴッホとはご存知、画家でありながら、生前はたった一枚しか絵が売れなかったと言われるあのゴッホである。しかし死後、彼は認められた。花梨もそれを目指しているのだというが、これは彼女がいま認めてもらえないことに対する、寂しさの裏返し。花梨こそ、自己肯定感の低い人間なのである。それをどうにかごまかして生きているのだ。

 誰もが、認められたい、理解されたい、愛されたいと願ってやまないこの時代。そんな想いが、SNS上には充満しているように思う。これを象徴しているのが花梨という存在で、つまりこれを演じている小野花梨は、さしあたり時代の体現者だ。私たちが享受する悦びも、痛みも、苦しみも、彼女が一手に引き受けて、スクリーンに刻み込んでいる。いや、「一手に」というと語弊がある。花梨は思い込むとすぐに暴走をはじめる少女だが、ときに彼女を後押しし、ときにたしなめるのが、風子という存在。花梨と真の意味で「連帯」するのは、ネット上にいるプリテンダーズの賛同者ではなく、やはり風子ただ一人だ。花梨が感じる“何か”をともに引き受ける風子役の見上愛もまた、時代の体現者だといえるだろう。

 さて、「良薬は口に苦し」という言葉がある。“良い薬は苦くて飲みにくいが良く効く”というものであり、転じて、“忠言は耳にしたくないものだがためになる”という意味を持つものだ。他者、ひいては社会からの苦言を耳に入れたがらない花梨は、やがて良薬の本当の味を知ることになる。果たして私たちは、この味を本当に知っているだろうか。本作は二人の少女による痛快なシスターフッド映画だともいえるが、ぜひとも彼女らとともに「連帯」し、彼女らが口にする良薬(突きつけられる現実)を味わってもらいたい。そこで得られる自己肯定感というものもあるだろう。

■公開情報
『プリテンダーズ』
渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開中
監督・脚本・編集:熊坂出
出演:小野花梨、見上愛、古舘寛治、奥野瑛太、吉村界人、柳ゆり菜、佐藤玲、加藤諒、浅香航大、村上虹郎、津田寛治、渡辺哲、銀粉蝶ほか
制作プロダクション:テレビマンユニオン
配給・宣伝:gaie
配給協力:Mou Pro.
(c)2021「プリテンダーズ」製作委員会
公式サイト: pretenders-film.jp
公式Twitter:@pretenders_film

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