石川由依、“無口系ヒロイン”を好演 『進撃の巨人』ミカサ役でみせた表現の妙

 印象的なシーンを、Netflix Japanが特集したミカサ・アッカーマンの動画で見てみることにしよう。トロスト区の商会会長のディモ・リーブスが住民避難の邪魔となっていることに気づいたミカサが、自身の身を最優先にしようと住民を無下に扱うディモにキレるシーンと、巨人の圧倒的な戦力に怖気づいてしまう仲間を目の前にして、あまりにヒドイ言葉遣いながらも奮起を促すシーンだ。

最強ヒロイン - ミカサ・アッカーマン | 進撃の巨人 | Netflix Japan

 冒頭は、門付近に住民がたくさん集まっている状況に気づいたミカサが、ディモの説明に受け答えしていくうちに、最終的には「死体がどうやってしゃべるの」という名言を吐く場面だ。

 自身らの仲間が命を賭しているなか、それをまったく受け止めようとしないディモに対し、「一人の命が多くの命を救うことを証明する」と判断したうえで躊躇なくディモを殺しに行く。「こいつは人間ではない」と判断して殺そうと試み、ディモが謝罪したのちに殺すことをやめている辺り、彼女の中では理性的で合理的な判断をしたといえようが、“殺そうと試む”このためらいのなさこそがミカサ・アッカーマンの衝動性を表現したシーンだ。

 パっと見ていると怒りのような感情は見受けられないが、その行為や行動から受け取られる怒気・威圧感はすさまじい。表情がドンドンと曇っていき、声のトーンが落ちていく流れは、驚きから侮蔑へと感情が動いているように受け取れ、石川の演技も少しずつトーンが変化していく。それも単なる怒りというよりも、呆れや蔑みに似たトーンも混ざった色合いだ。キャラクターの特徴・シーンへの理解を基にしてこの演技を表現するというのは、舞台出演で培ってきた演技力や勘が大きく作用したかのようでもある。

 この直後、巨人相手に大きな痛手をもらい、前衛の隊員は全滅し、訓練兵のみが残った。エレンが巨人に食べられたという状況をアルミンから告げられた直後、戦意喪失気味の仲間たちを前にして、あまりにも拙い言葉で鼓舞しようとするシーンだ。本に書かれたような言葉をそのまま述べているかのようですらあり、棒読み気味で抑揚がないままにツラツラと声をあげている。

 「何を急に言い出すんだ!」とキレる隊員も映っているが、「何を考えているかが察しがつかない」という底知れなさが先んじていることで、彼女の意図が掴めないということでもある。だがジャンを筆頭にしてその意図に気づき、彼らは大きく奮い立つことになる。

 本当ならばもっと自然かつ適切な言葉を使いたい場面。彼女の不器用な部分が際立ったシーンであり、その存在感・威圧感の強さもうかがい知れる場面と言えよう。それに合わせるように石川の演技も、発話はキレイでありながら息継ぎや句読点などが所々おかしい、妙な一人語りとして演技している。ここはまさに原作を再現する呼吸感であり、アニメーションの動き・色彩も相まって独特のムードをもったシーンになった。

 ミカサのように表情や感情が大きく出ないキャラクターの場合、声のトーン一つでキャラクターや場面の印象がガラっと変わってしまうことが多々ある。そんな難しい役どころを、当時ほとんど声優としては活動していなかった石川由依に託した。その判断が間違いではなかったことは、本作を観ている方ならばご存知だろう。

 先日には結婚を発表し、公私ともにまさに充実の時期を過ごしている石川。それだけでなく、多数の作品で素晴らしい演技力を披露しつづけることをおもえば、そのきっかけはミカサ・アッカーマンという繊細かつ豪胆なキャラクターだったことを忘れてはならないだろう。 

※記事初出時、本文に誤りがありました。訂正の上、お詫び申し上げます。(2021年10月6日10:23)
誤:アルミンはエレンと幼少期からの仲であり、キレイな黒髪に黒い瞳で端麗な容姿を持つ美少女。
正:ミカサはエレンと幼少期からの仲であり、キレイな黒髪に黒い瞳で端麗な容姿を持つ美少女。

■放送情報
TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season 第76話「断罪」
NHK総合にて、2022年1月より放送予定
※放送日時は変更になる場合あり
キャスト:梶裕貴(エレン・イェーガー)、石川由依(ミカサ・アッカーマン)、井上麻里奈(アルミン・アルレルト)、下野紘(コニー・スプリンガー)、小林ゆう(サシャ・ブラウス)、三上枝織(ヒストリア・レイス)、谷山紀章(ジャン・キルシュタイン)、細谷佳正(ライナー・ブラウン)、朴ロ美(ハンジ・ゾエ)神谷浩史(リヴァイ)、子安武人(ジーク)、花江夏樹(ファルコ・グライス)、佐倉綾音(ガビ・ブラウン)、沼倉愛美(ピーク)、増田俊樹(ポルコ・ガリアード)、村瀬歩(ウド)、川島悠美(ゾフィア)、松風雅也(コルト・グライス)、
原作:諫山創(『別冊少年マガジン』連載/講談社)
監督:林祐一郎
シリーズ構成:瀬古浩司
キャラクターデザイン:岸友洋
総作画監督:新沼大祐
演出チーフ:宍戸淳
エフェクト作画監督:酒井智史、古俣太一
色彩設計:末永絢子
美術監督:小倉一男
画面設計:淡輪雄介
3DCG監督:上薗隆浩
撮影監督:浅川茂輝
編集:吉武将人
音響監督:三間雅文
音楽:澤野弘之/KOHTA YAMAMOTO
音響効果:山谷尚人(サウンドボックス)
音響制作:テクノサウンド
アニメーションプロデューサー:松永理人
制作:MAPPA
(c)諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
公式サイト:https://shingeki.tv/final/
公式Twitter:@anime_shingeki

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