『おかえりモネ』には私たちの“理想”が詰まっている 生身の人間を描く安達奈緒子脚本の妙

『おかえりモネ』安達奈緒子脚本の妙

 時に、湧き上がってくる感情のリアルさに驚かされることもある。真面目で堅実な妹・未知の中に湧き上がる片想いの凶暴性、可愛くて優しい無敵女子に見える莉子(今田美桜)が持つ「自分には何もない」ことへの葛藤。真面目で家族思いの亮(永瀬廉)が、内に秘め続けていた感情。それまでの台詞の端々に存在していた小さな違和感が、数週間後にドロドロとした、ハッとさせられるほどリアルな感情として表出され、しばらくして思わぬところで彼らの「腑に落ちた瞬間」が示されることに、ドラマを観ているという感覚をつい忘れてしまいそうになる。

 「腑に落ちる」まではいかなくとも、みんなちょっとずつ変わっている。「触れる」ことを通して描いた菅波と百音の恋の進展具合や、互いの関係性の何らかの変化を裏付ける呼び名の変化にときめくことができるのは、彼らが物語の中で、生身の人間としてちゃんと呼吸しているからだろう。それこそが、安達奈緒子脚本の妙である。

 このドラマには、ありとあらゆる、これからの時代を生きていく上での理想、「新たなスタンダードとなり得ること」が詰まっている。気象事業の重要性もそうだが、「一緒にいるって、一緒に2人の未来を考えること」だと考える、菅波と百音の、過度に寄りかかり過ぎない恋愛関係もそうだ。

 そして、特にこれからの気仙沼編を観ていく上で最も注目したいのは、ドラマが「地元」をどう描くかということである。これから地元で生きるということは、インターネットが普及し、リモート化で移動の必要性が減り、自己発信の手段が増えた現代、若者にとってより身近な選択肢となっていくことだろう。だからこそ、このドラマの、地元と向き合う人々を突き詰めて描く姿勢が興味深い。

 多くのテレビドラマが「地元に帰る=都会の喧騒に疲弊し休息しにいく」という構造を描きがちな中で、百音が、「とりあえず実家に帰ってから考える」のではなく、社員の肩書と、基本給と初期費用、観測データのアクセス権を死守したという、もちろん会社の恩情が余りあるのは確かだが、実に堅実な方法をとったことも嬉しかった。殊更「若い世代」へのエールでもあるこのドラマが、これからの日本をどう照らすのか、どんなヒントを私たちに与えてくれるのか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる