『おかえりモネ』百音の脳裏に“あの日”が再来 菅波が投げかけた言葉とは

『おかえりモネ』百音に“あの日”が再来

 台風によって龍己(藤竜也)のカキ棚は壊滅的な状態となり、永浦家も窓や戸が壊れる大きな被害を受けていた。『おかえりモネ』(NHK総合)第92話で、家族と電話がつながらず焦る百音(清原果耶)に、菅波(坂口健太郎)は「どうして自分で行かないの?」と問いかける。

 百音がいつになくあわててしまったのは、“あの日”のことがあったからだ。菅波は「心配なら行って自分で見て確かめて、あなたにもできることをすればいい。また言うの? 何もできなかったって。もうそんなに無力じゃないでしょ」と百音の目をじっと見る。前話、コインランドリーでのプロポーズ(「この感情がすべてだ!」)に加えて、東京に戻る決断をさらっと報告した菅波は、今日はちゃんと“先生”だった。「あの時いなかったって思いに押しつぶされてきたのは誰ですか?」。誰よりも自分を知ってくれる人の言葉に背中を押されて百音は亀島へ急ぐ。

 あの日と今日が違うこと。それを象徴しているのが島と本土に架かった橋だ。あの日フェリーが出航せず対岸から見守るしかなかった故郷は、夕方東京を出てタクシーを飛ばせば、その日のうちに到着できる場所にあった。永浦家に到着した百音が目にしたのは予想と違う光景だった。暗く沈んだ雰囲気と対照的な明るくにぎやかな雰囲気に、百音は不意を衝かれて固まってしまう。

 壊れてしまったカキ棚のカキを、傷む前に出荷したりむき身にするため集まる人々。そこには未知(蒔田彩珠)や亮(永瀬廉)だけでなく三生(前田航基)や悠人(高田彪我)の姿もあり、遅くまで作業にかかりきりになっていた。8年前、ようやく島に渡った百音の目に映ったのは、泥だらけになった建物と同級生のぎこちない笑顔。彼らとの間に見えない壁を感じ、気まずい空気が流れた。一瞬、百音はそのことを思い出してためらうが、「何のためにここまで来たの」と自分に言い聞かせて踏み出す。人々の反応は優しくて、突然現れた百音を温かく迎えてくれた。百音が泣いてしまったのは、皆の無事を知ったことやあの日の記憶から解き放たれた安堵もあったと思う。

 郷里の人々はそれぞれのやり方で震災と向き合ってきた。そうなるまでの一つひとつのプロセスと、「何もできなかった」百音がみんなの役に立ちたいと思って気象予報士になった道のりは深いところでつながっている。百音が傷ついたり怖れるのは、守ろうとするもののかけがえのなさを誰よりも知っているから。朝岡(西島秀俊)の「これで永浦さんは引き返せなくなるかもしれません」という言葉の真意は、「目の前にいる人たちを相手に仕事をするというのは(中略)自分のせいで身近な人が傷ついたり、何かを失ったりするのを目の当たりにすることになる」。今回の帰島で、百音はあらためて身近な人たちのために何ができるかを意識したはずだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる